最近、距離感がおかしい気がする。
ヴァンパイアハンターであるにも関わらず吸血鬼を助け、その使い魔のコウモリと喫茶店に行き、吸血鬼とはラーメン屋に通い、奴の屋敷で暖炉にあたって日々を送っている。
このままでいいのだろうか?
奴を殺してしまえばこの仕事も終わるというのに、奴が不死であるから仕事に終わりはない。
流石にヴァンパイアハンター協会のある街に居る妻の事も心配であるし、悩みどころだ。
そこに誰か喫茶店に入ってきた音がして、自分の座るボックス席に座って来た。
怪訝な顔をしつつ相手を見ると、すぐに相手の方から喋りかけてきた。
今日は口を火傷してないようだね。それと座ってからなんだが相席いいかい?あ、店員さん!『もはやお茶風味の牛乳的なミルクティー』1杯ちょうだい。アイツは一緒じゃないんだね。
そう一気に言った相手は、先日薬を貰った魔女だ。
この魔女も距離感が狂う勢いがある。
今の奴の具合や、心を見透かすようにオレの悩みを聞かれ思わず悩みを打ち明けてしまった。
そりゃ、協会が悪いね。不死なんだから殺せない。それをこんな若い奴に押し付けるなんてね。協会のお偉いさんに薬盛ってやろうか?
ヒヒヒっと笑う様な仕草をしながら自分の悩みに共感される。
全く、不思議と引き込まれる距離感の狂いが怖い。
(距離)
ハンター君、チョロいくらい自分の事話しちゃうから付け込まれてるんじゃ?
先日の吸血鬼ドタバタ騒動から数日が経った。まぁ今もまだ奴は生きているし、騒動以前の状態に戻った日常なのだが。
オレは喫茶店でいつも頼むコーヒーを飲み、しばらく時間を潰してから屋敷へ戻るとリビングからピイピイと何かが泣く声がしていた。
まず、寒さが苦手らしく暖炉の前で転がっている吸血鬼は放っておき鳴き声の主のコウモリの元へ行く。
どうやら暖炉の火を使ってのマシュマロ焼きに失敗して苦い苦い焦げを作ってしまったようで泣いていたようだ。
泣くな泣くなと、焦がしたマシュマロをフォークから取り、新しいマシュマロを刺してコウモリに渡す。泣き止んだコウモリは暖炉にフォークを向けまたジリジリとマシュマロを焼き出した。
焦げたマシュマロは奴の口にねじ込んだ。
甘い中に苦味と塩味を感じる。大人の味だな。案外美味いじゃないか。
そう言いつつも奴は動こうとしない。
マシュマロが焼けていく甘い匂いが漂うリビングでゆったり時間が流れている。
全く、自分の使い魔が泣いているのに放置したバツで屋敷中の窓開けの罰でもくらわしてやるとするか。
(泣かないで)
この後窓開けられて寒さに泣く吸血鬼さんとまたマシュマロが焦げて泣くコウモリの大合唱が始まるご様子。
もうすぐ冬がはじまる。
私の時期。
この雪山を支配できる時期。
そうだ、この雪山に入る者を捕まえて放り出すんだ。
冬の山には二度と入れないようにたっぷり驚かしてから放り出すんだ。
早速誰かが雪山に入り込んできたのを察知し、驚かす為に住処の戸を開ける。
迷い込んだ者を誘い込む為に。
雪山の冬のはじまりは、今まさに始まった。
(冬のはじまり)
雪女のオマージュ、最初の驚かされる人は誰なんだろう?
亀が連れてきた今度の人間、めっちゃタイプなんだけどー!イケおじなんだけどー!!ダンディな髭とワイルドなオールバックヘアスタイルとかもう!!もう!!!!
「ワタシ、シーマ・ウーラッテナマエ、イタリアノチョウジョウゲンショウガクシャ、ウミノソコノシロホントウダッタ」
あ〜、カタコト日本語で喋っ!!イケボー!!
どうか、帰るとか言わないで!この素敵空間を終わらせないでーーー!!
(終わらせないで)
浦島太郎のオマージュ、竜宮城の乙姫様、大興奮だようで。
熱い口を我慢しつつ屋敷に戻るとさっきの見知らぬ人がリビングで奴の口を覗いたり腕になにかの装置を巻いたりしていた。やはり、医者的存在だったようだ。
オレに気が付いたのか1度診察をやめてこちらに向いた。
初めての顔だね。アタイは怪異専門の魔女のあれよ。アンタはパッと見、ヴァンパイアハンターのようだけど、、、アンタ、口の中火傷してるだろ?コイツのついでだ、薬いるかい?
そう言いながら少しニヤッとした表情をしてまた奴の診察に取り掛かった。
一目見て、何も喋ってないのに口の中の火傷まで見抜かれた。コレは少し警戒した方がいいような気がする。
診察を終えたのか、すぐ作ってやるから待ってな。とキッチンへ入っていき、すぐに何かを切ったりすったりの音とハーブ系の香りが漂い始めた。
奴はやはり微熱どころじゃなくゼェゼェ言いながら机に突っ伏している。
すぐに出来たよ。と小さい鍋と漏斗を持って魔女が戻ってきた。
そして奴を床に仰向けに転がすと漏斗を口にねじ込み、小鍋の中身を一気に注いでいく。奴はもがいている。
魔女子さん特製、『法で認められた愛情しか入っていない薬』だよ、特別にニンニクを入れてやったんだ、ありがたく飲みなっ!
と、無理やり流し込んでいく。飲み込んだのを確認するとこちらに向き直り、
体の再生時に土の微生物まで取り込んだようだね。この薬で微生物はいなくなるからもう大丈夫さ。それとアンタの口にはこの『法で認められた愛情しか入っていない薬』を飲みな。
とお猪口を渡された。ハーブ香がかなりきつい液体だ。覚悟して飲み込む。すると口の熱さは本当に一瞬で消え去り、火傷の違和感も消えた。
よしよしと頷きながら魔女は、奴に1晩寝れば治ってるからねと言ってサッと帰って行った。
全く、とんでもない魔女が居たものだ。まぁ薬の効き目は確かなのだろう。
(愛情)
魔女子さん特製『法で認められた愛情しか入っていない薬』は違法薬物じゃないので安心して下さい。
(お知らせ、このシリーズの連投はこれで一旦終えて童話オマージュを再開します。吸血鬼シリーズは時々投稿します。)