人類は宇宙へ理想郷を求めた。
「人類の存在、文化、語源、食」を記した金属板を載せた衛星を幾つも宇宙へ飛ばし、他の星に存在するかもしれない生命に届けと賭けた。
だがそれが間違いだった。
他の星の生命体は、人類の住む星に理想郷を求め迫ってきた。
ある生命体は月に拠点を構え、また、ある生命体は海の底に拠点を構えた。人類が知らない間に、既に侵略されていたのだ。
だが、他の星の生命体は間違っていた。
人類の住む星に理想郷は存在しなかった。
誰かにとっての理想郷は、他大多数には理想では無いのだ。
そして、また人類も理想郷を求めたとて、理想には辿り着かないのだった。
(理想郷)
他の星からの侵略生命体が、かぐや姫の月の民と浦島太郎の竜宮城の民だったという話
昔話童話のオマージュをしている身として、お題に合った話を探す際に子供の絵本を漁る事がある。
有名な話、あまり読まなかった話を読みながら懐かしさに浸る。
お題の事も忘れてはいけない。
昔話童話の場面を切り取りグネグネ捏ねて粘土細工のようにオマージュ品を作り上げる。
粘土細工も懐かしく思うなぁと書きながら思いつつ、今日も子供の絵本を読んでネタを捏ねる。
(懐かしく思うこと)
先程、娘を配達に送り出したところだ。赤い頭巾が見えなくなるまで見送った。この瞬間の不安は慣れはしない。
しかしそんな事で止まっている訳にはいかない。いろいろと家事があるのだから。
朝食の皿を片付けてから村の井戸に水を汲みに向かう。
井戸には先客が居て水桶を井戸から引き上げている最中だ。
村外れに住んで居る猟師さんだ。軽く挨拶をしつつ順番を待つ。猟師さんが水を樽に移しながら話しかけてきた。
娘さんは今日も配達に行ったのかい?ここらはまだ大丈夫だろうが2つ向こうの岩山でオオカミが居着いてしまったらしいんだ。そっちに居る猟師仲間がまだ若い群れだと言っていたからこっちまで来ることは無いだろうが、森に行く娘さんに何か鈴でも持たせてやりな。
そう話しているうちに樽は満水になったようで、猟師さんから水桶を貰い井戸に落とす。
猟師さんは勢い良く樽を担いで帰って行った。
オオカミ…そんな話を聞いたらまた不安が込み上げてきた。
慣れた手付きで水桶を引き上げ自分の樽に移し、また水桶を井戸に落とす。何度かそれを繰り返し樽に入れていく。
まるで不安が注がれているようにも思えてくる。
もう少しで樽はいっぱいになる。
だが突然、水桶を繋ぐ縄が切れ、水桶は井戸の深くに沈んで行った。どうしようもないその光景に何も出来ずただ井戸の暗がりを覗き込んだ。
娘が向かった森の方を見る。普段より暗く感じた森に無事を祈りつつ樽もその場に置いて猟師の家へ走りだした。
(もう一つの物語)
赤ずきんちゃんのオマージュ、母親目線
昨日の物語のもう一つの物語。
丸呑みにされたのは一応救いだったのだろう。噛まれてたら助からなかったはずだ。
そして、暗がりの中には先客が居た。
先に飲み込まれていたおばあちゃんだ。
狼の胃の中はギュウギュウ詰めでかなり苦しい。
どうにかしてこの暗がりの胃から出なくては。
しばらくもがいていたら、いきなり光が差し込んできた。そして、6匹の子ヤギたちが押し込まれてきた。
暗がりの中でパニックになっている子ヤギたちと、諦めて寝ようとしているおばあちゃんに挟まれつつ、どうにか助かろうともがいていた。
その後色々あって、無事に暗がりの胃から出れた2人と6匹は狼の胃に石を詰め込み古井戸に突き落とした。
暗がりの中で狼がもがく声が響いてくる。
その声が漏れないように蓋を閉める。
全てが終わった頃、日は沈み辺りは暗がりに包まれていた。
(暗がりの中で)
赤ずきんちゃんと7匹の子ヤギに出てくる狼のラストシーンが同じだと気付き混ぜました。
「正直に言って紅茶の香りは苦手よ。珈琲の方がいいわ。」
そう言いつつ、ティータイムの紅茶葉クッキーをつまんで口に運んでいる。
いくつ目かのクッキーを食べようかとしたところでちょっとした違和感に気が付いた。
クッキーを焼いた本人が一切食べてないのだ。
「どうしたの?自分で焼いたクッキーなんだから食べればいいじゃない。」
クッキーを相手に差し出すが、焼きたての味見で食べたからと断られた。
なら、と思いクッキーを食べ進める。
紅茶の香りの中に時折香るリンゴの香りが食をどんどん進める。
「ん?リンゴ?」
相手がようやく気が付いた?とでも言いそうな表情でこちらを見ている。
「あなたが私に食べさせた毒リンゴ、美味しかったわよ」
紅茶の香りがいっそう強く香った気がした。
(紅茶の香り)
白雪姫のオマージュ、生き返ったあとの復讐