バイバイ
生まれてから今迄どれくらいバイバイと言ってきただろう。
笑顔で…無表情で…泣き顔で…。
1番辛かったバイバイは何だった?
人との別れはさだめだから諦めもつく。
自分自身…それも誰かに恋をしてドキドキしてキュンとして苦しくなって…そんな恋心にもう2度と出会うことが叶わない、淋しい自分自身にバイバイした時、1番悲しかった。
未来はわからないと言うけど、枯れてしまった葉っぱは風に吹かれて飛んで行くだけ。バイバイと…。
旅の途中
旅をして来た、そして今も旅の途中
一人の時もあった。そして二人、三人、四人、五人の旅は楽しかったけど苦労も多かった。そして今二人になり最後の旅が始まった。
同じ方向を向いてると思っていたら全然違う方向を向いていたことに今更ながら気づく。結局この旅は孤独な旅なのか…と。
それぞれが一人きりの車両に乗り孤独な旅路を行く。たまたま方向が同じで一緒の旅に思えても心の中は違うし、目的地も違う事には気付かないふりをしている。
そもそも目的地はどこ?
観光地すら意見合わないのに。
天寿を全うすること?
同時にあの世への旅に向かうこと?
たとえ手を繋いでも、抱き合って命を終えたとしても魂は一緒なのだろうか?その先の旅は孤独な旅ではないのだろうか?旅の終わりはどこなのか?
そんな事わかるはず無い。今枯れ葉が川に浮かび、流れどっかに引っ掛かり又流れる。沈んだり浮かんだり
桜の花びらと一緒だったり、昇り鮭とすれ違ったり、ダイヤの様な霜と仲良くなったり、賑やかなこの旅を楽しもう。この自由な孤独の旅を。
帽子かぶって
幼稚園の頃、どうしても帽子を被りたくなかった。頭にのせる、頭を締め付けられる、それだけで全身を縛られてる感じがしたからだ。
母親はいつも帽子をかぶっていた。
何故か。年をとってようやく分かった。
最近帽子をかぶるようになった。
あれ程嫌いだった帽子。夏も冬も。
恥ずかしさと心細さと寒さと…。
髪の乱れを隠し、ふわっと包む安心感と、冷たい風から耳まで温めてくれる帽子。
今では外に出る時はお守りのようにずっと私に寄り添うように。
今日も私は帽子をかぶって…。
わぁ!
ある正月の夜の事である。
同級生数人と家族全員集まってご馳走を食べ、子供達はあちこちで遊び回っていた。いつものゲームや紐引き大会、でもいつもいるはずの息子の姿がない。付き合いがあり来られないと連絡があった。彼が居ないだけで何か忘れているような感覚になる。それでもあっという間に時間は過ぎた。そろそろと重い腰を上げかけたその時である。
バン!と扉が開き、全裸の息子が入って来た。丸いお盆を股間に当てて踊りだしたのだ。
わぁお!
全員驚きと恥ずかしさと嬉しさの混ざった悲鳴が響き拍手喝采となった。
サービス満点の優しい彼はこの為だけに家に寄ってくれたのだった。
自慢の…息子である。
やさしい嘘
私は正直で思った事を言ってしまう。それが天然で裏がなくポジティブな事であれば自分も周りも平和なのだが…。
振り返ればいつも自分の心のままに生きて来た。我慢できない性格なのだが、それは我慢を強いられ耐え忍ばなければ生きられなかった若い頃の反動ではないだろうか。好きに出来るとわかってから、自由で良いのだと解った時から、嫌なことはしない。…と、思っていても生きていれば嫌なことは次々とやってくる。
心と裏腹に結局自分に嘘をついて本当に正直に生きたことはあったのだろうか。
家族に嘘はいけないと何度も言ってきたことも嘘くさい。全員何らかの嘘をついていることはたぶん、皆気づいていると思う。その中には思いやりのやさしい嘘もあるだろう。
その事を責めはしない。生きる為には必要な事だ。
一生そばにいるよ…も、愛していると言った事も…いつか一緒に旅をしようと言ったことも…。
2人が一緒に生きていく為のやさしい嘘だったんだろうか。きっとその時は信じていたんだよね。無理にでも信じようとしたんだと今ならわかる。言葉にしないと、嘘でも伝えないと、あっという間に消えてしまう運命だとお互いわかっていたから。