【奇跡をもう一度】#63
その瞳を見る時は
もう二度と刻まれることはなかろう。
眩しいと目を瞑るには
十分すぎるくらいの光の輝きに覆われた
あの奇跡の瞬間をもう一度、もう一度
そう心に願いながら奇跡を待つ。
だが運命というもの
いくら待っても訪れない。
必要なのは、自分にそれを引き寄せること。
【たそがれ】#62
その頃の空に
君の横顔と太陽の指輪が見えた。
それはとても君に似合って
今からですらも、贈りたいと思わせる。
金色に輝く太陽と争わず
それと調和して新たな美しさを生み出す
君の器の広さを感じた。
やはり、君は美しい。
【きっと明日も】#61
夢から起きると君はいない。
現実というか、当然の結果というか
そんな世界線なのだろうと納得しかけた。
しかし思うのだ。
君がどこに居ようと
私は夢の中でさえ会えていれば
それは何よりも幸せであることを。
さぁ、今日も、夢で会えることを願って
それを叶えられるほどの生き方をしよう。
きっと明日も、君に会う夢を見て。
【静寂に包まれた部屋】#60
同じような体験をする方が
今の今まで、居ないことも祈り続けます。
去年の八月某日。
田舎者の私は扇風機しかない部屋で
ひたすらに家族と時間を過ごしていました。
その時は実家に帰省していて
田舎の暑さがお久しぶりなのもあり
少々疲れていたのを覚えています。
山に囲まれた場所にあるため
太陽はすぐ落ち、夜は長く
永遠に暗くなる一方でした。
その晩のことです。
弟がアイスを食べたいと駄々を捏ねるので
遠く離れたコンビニまで行ってやってくれ
と祖父から言われ、車を出しました。
玄関を出た先から
少し不気味さを感じてはいましたが
特に気にするほどでもなかったので
半袖短パンにビーサンという
近所を代表したような姿でコンビニへと向かっていたその頃からでしょうか。
玄関で感じていた不気味さが
段々と増してきているのを感じました。
なんと表せば良いのか…
こう、夜の山に近づいてはいけない
というのと同じように、外に出てはいけない
というような気がしてきました。
ですが、何よりも輝かしい目で
私を見つめる弟の手前、やっぱり行かない
とは言えませんでした。
ですが、もう明らかに何か聞こえるんです。
しゃん…しゃん…
お祓いなどに使う様な沢山鈴のついたものを
一定の間隔で振っている音。
車の窓は一つたりとも開けていないんです。
夜の田んぼ道は蝙蝠や虫が飛び回るので
絶対に開けない
というのは私でも知っていました。
それがその音の怖さを増していました。
窓を開けずにも鮮明に聞こえる鈴の音。
気がつくとその音は止んでいました。
空耳か…なんて思った私が馬鹿でした。
助手席から
しゃん…しゃん…と二回なりました。
もし警察がいたら
捕まっていたであろう速さで
ブレーキをかけました。
恐る恐る横を向うとしても
向けませんでした。
そうです、今思えば金縛りでした。
手も、足も、顔も、身体も動かせません。
一つ動かせるとしたら、目線でした。
眼球が飛び出てしまうくらいに
私は真横を見ました。
弟が持っていたんです、鈴のついたものを。
それをどうしたのかと聞こうとしました。
ですが、それが驚くほど
言葉に出来ないんです。
よくテレビでする怖い話に
恐ろしすぎて言葉が出ない
とありますが、まさにそれでした。
口は餌を欲している鯉のように
パクパクとするのみで、
弟はひたすらに前を向くばかりです。
気がつくと
実家の布団で朝を迎えていました。
なんだ。夢だったのか。
安堵するのを神は拒んだことでしょう。
私は再度
金縛りのようなものにあいました。
あの時の記憶は残っているので
私はひたすらに目線を動かしました。
障子の人影が列になっているのが見えた時
背中に冷や汗が寝ているながらも
流れているのを感じました。
また鈴の音です。
流石に私もそこまで怖がりではないので
もう飽きてきました。
きっと、家族の嫌がらせだろうと。
地球の重量を何十倍もに感じながら
身体を何とか動かし
人影の見える廊下に歩み出ました。
なんだ、誰もいないじゃん
そう思ったのも束の間、私の背中側から
低い位置に鈴の音が二回なりました。
気がつくと、私は田んぼ道で車に乗り
弟は横に輝かしい目で座っていました。
もう私は何が何だか分かりません。
何回このループをして
どの世界が元の世界なのか。
今、私はこの文章を
正確に打てていますでしょうか。
今、私はいつの
この長く永遠に続く暗い夏の夜を
生きているのでしょうか。
それとも、もうあいつらの仲間入りを
果たしてしまったのでしょうか。
もし、貴方の世界が正しい
と思う理由がありましたら
どうぞ、こちらへ教えてください。
静寂に包まれた部屋の隅で
鈴の音が聞こえないことを
祈り続けている私からのお願いです。
【別れ際に】#59
-して欲しいと言うから。
こんな関係は良くないことであるのは
誰でも分かりきっている。
それを蔑すむ中秋の名月は
あと一晩先であるようだった。
だがそれはほぼ満月であって
周りの黒くただあるその空は
指輪を描いているかのように
窓越しに月色を帯びていた。
放置された風呂場は
タオルがあちこちで広がり
歯ブラシは自由に横たわっていた。
ベッドはキングサイズが一つ
二人で寝ていたため片付ける術はない。
それ以外のソファや入り口などは
比較的元あった状態を保っている。
掃除する必要があるのは風呂場とベッド。
眩しいほどの薄い朝方の空が見え始める頃。
別れ際の彼女の額に一度キスをした。
戻って来れてしまう自身も悪いとは思うが
地縛霊のような奴と一緒にいれば
他人からは一人の可笑しい人間と思われる。
「悪く思わないでくれよ」
そう書いたつもりでいる置き手紙をし
これを聞かれた時には
はぐらかしでもしておこうと思う。
カーテンを開け放ち明るい部屋で
彼女の細く滑らかな首に手を添えた。
-して欲しいと言うから。