気分屋の現実逃避日記

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【別れ際に】#59
-して欲しいと言うから。
こんな関係は良くないことであるのは
誰でも分かりきっている。
それを蔑すむ中秋の名月は
あと一晩先であるようだった。
だがそれはほぼ満月であって
周りの黒くただあるその空は
指輪を描いているかのように
窓越しに月色を帯びていた。
放置された風呂場は
タオルがあちこちで広がり
歯ブラシは自由に横たわっていた。
ベッドはキングサイズが一つ
二人で寝ていたため片付ける術はない。
それ以外のソファや入り口などは
比較的元あった状態を保っている。
掃除する必要があるのは風呂場とベッド。
眩しいほどの薄い朝方の空が見え始める頃。
別れ際の彼女の額に一度キスをした。
戻って来れてしまう自身も悪いとは思うが
地縛霊のような奴と一緒にいれば
他人からは一人の可笑しい人間と思われる。
「悪く思わないでくれよ」
そう書いたつもりでいる置き手紙をし
これを聞かれた時には
はぐらかしでもしておこうと思う。
カーテンを開け放ち明るい部屋で
彼女の細く滑らかな首に手を添えた。
-して欲しいと言うから。

9/28/2023, 10:11:09 PM