夜明け
マンションのエントランスを出ると、空はまだ夜で、静かな青信号の向こうに浮かぶ鈍色の輪郭が、かすかに、赤く色づきはじめていた。
振り返ると月は夕焼けの位置にあって、
昨夜見た金星の位置には、それとは違う何か明るい星がポツリと浮かんでいた。
寒かった。
同じくらい静かだった。
オレはロングコートの襟を立てて、時折吹いてくる冷たく重い風に耐えた。
トラックが荷台を鳴らして青信号を通過していく。
そのあとを目で追うと、いつのまにか鈍色だった雲は底面から炎上をはじめていて、それが朝焼けのはじまりだった。
#冬晴れ
お題「幸せとは」
「幸せってなんだろうね」
って僕が聞くと
「それは難しい問題だねぇ」
とオレは冗談めかして腕を組んだ。
答えは喉のあたりまで出かかっているのだけれど、その答えが喉元を越えようとすると「オレ」が再考を求めるのだ。
『そんな答えは幸せではない』
『その論には穴がある』
『そんなことを言ったら世間に叩かれる』
拉致があかないから僕は僕に無理やり白状させる。
「友達がいて、お金がいっぱいあって、家事洗濯を引き受けてくれる女の子がいて、しかもセックスもさせてくれる、名声があって、友達は僕を尊敬してくれて、年収が......」
「まてまて」
そこまでいうと耐えかねて、オレがストップをかけた。
「なんだよ、いいとこなのに」
オレは僕にマユをしかめて一言いう。
「王じゃん」
「まぁそういうことだよね」
「セックスしたいなぁ」
「うん」
「尊敬されたいなぁ」
「うん」
「女の子に優しくされたいなぁ」
「うん」
「神じゃないんだよ」
「ほう」
「王様なんよなぁ」
「あ、オレ、お前が本当に求めているものが分かってきたよ」
「えー、なんだろう?」
僕は冗談めかして腕を組んだ。
喉を越えて出てきそうな答えはとても単純で、剥き出しで、言葉にしたらバカバカしく思えてしまうようなものだったからだ。
お題「日の出」
年越しライブとさだまさしを観ていたから初日の出はもう真上にあった。
最近は年賀状どころかLINEすらこない。
「明けましておめでとう」
LINEグループに送るとチラホラと返事がきた。
その中に見事な初日の出の写真があった。
『今、九十九里。初日の出見てきた』
へぇっておもい写真に保存。
Twitterをひらくと明けましておめでとうと流れているから適当にハートマークをぽちぽちしていく。
なんとなく自分も挨拶しておこうとおもって、さっき保存した写真を上げる。
『初日の出。今年もよろしくお願いします』
うん。
嘘は言ってない。
テレビをつけてろくなものがないことを確認したら、おもいっきりオシッコをしてもう一度布団に潜り込む。
布団の温もりを探す。
お題「今年の抱負」
一冊書いて文学賞に送る
送るまででいい
通る必要はない
まず送れるレベルの作品を書く
送るプロセスを実践する
まずは最底辺からスタートだ
お題「新年」
LINEを見ると疎遠になった人がズラリ。消してしまえばいいなんて思うかもしれないけど、出会いの少ない時分である。
なるべくなら仕切り直したい。
何事にも仕切り直しが必要なときがある。新年というのは仕切り直しにうってつけだとおもう。
特に交友関係。
「新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「も」
「も」ってなんだ。去年は一度たりとも連絡しなかったじゃないか。
それでも何時間かしたあとに
「おお、久しぶり!」
なんて返信が来ると嬉しくなる。
もしかして向こうも何でもないようなフリをして、仕切り直しを待ってたのだろうか。
そうだと嬉しい。
年賀状という風習から察するに、昔の人も自分と同じように仕切り直しのタイミングをうかがっていたのだろうか。
LINEが鳴った。