僕は手を伸ばして君の涙を拭おうとする
そしてすぐ、君に触れられないことを思い出して諦める
せめて涙の理由だけでも僕に教えてくほしい
誰かに話すことで心が軽くなる、
そう聞いたことがあるんだ
君の涙を拭うことも
相槌を打つことも
一緒に悲しむことも
背中を押してあげることも
全部ぼくにはできないけれど
せめて理由くらいは教えてほしい
君のとても綺麗な、でも儚く悲しい涙の理由を
握りしめられた手は今まで感じたことのない痛みが走っていた。
それでも悪い気はしなかった。
でも、跡がつきそうで、流石に手が離れた。
「大丈夫、俺はどこにも行かないからさ、、、、、、、なくなって。」
そう話しかけてみるが、顔は相変わらず暗いまま。
電気のついた明るい部屋でも、俯いた彼の顔には光など差せそうもない。
俺の顔を覗き込んでまだ泣いてるこいつは、
いまにも何処かに消えてしまいそうだ。
いっそ、「せめて、同じ場所にいけたら」そう何度も呟いている
俺だって、まだいきたくはなかったんだ。
でも、しょうがない。
いつかは来る日だったんだ。
おれが、ちょっと早かっただけで。
「、、、ごめんな。お前には笑っててほしい、、、、
なんて、ありきたりだしわがままかな?」
もうそろそろいかなくちゃならない。
もともとあんまり感情を行動に出さないほうだから、
とてつもなく離れ難いが、そうもいかない。
「もっとはやく伝えてれば、よかったのに、、、
俺の馬鹿、、、、なんで、、、」
隣から何か聞こえてくる。
「手紙なんかに書かないで、言葉で伝えてよ、、、
俺が真面目なときのお前に、真面目に返さなかったこと ないだろ、、、、」
世間体とか、そんなの、お前がいればよかったのに、、
そんな言葉が聞こえてくる。
それこそ、今じゃなくてもっとはやく言ってくれよ。
どうせ答えてくれないから、小さく笑いながら歩き出す。
「ほんとごめんな。
笑えとは言わないから、泣かないでくれ。」
背中を押すつもりで、
力を込めて背中を叩きながら俺は背を向けた。
後ろで振り向くような音がしたけど、気のせいだろう。
気のせいじゃなかったとしても、
もう、振り向いちゃダメだ。
これ以上、未練はいらない。
どうしてこうなってしまったんだろう
数分前までここには明るい空気が立ち込めていたのに
それはもう、嫌になるくらいに
それでも、
そんな空気が、
そんな空気をお前と一緒に過ごすのが、
好きだったのに
ついさっきまで明るい空気がむせかえるほどにここに立ち込めていたことは分かるのに、
この数分で僕が何をしていたのかは、何もわからない
ただ一つ、変え難い現実として僕の前にあるのは、
さっきまで笑っていた、お前の歪んだ瞳
そして、血のついた包丁
どうしてこうなってしまったんだろう
部屋にはウザいくらいの静寂が溜まって、
二人分の弱々しい呼吸音すら聞こえる
違う
微かに、何かが滴る音も
目の前の景色は酷く暗く、歪み、
同じ場所だとは思えなかった
もう、お前の顔しか見えない
顔すらも形がくずれて
りんかくもくちもはなもわからない
わかるのはお前の歪んだ瞳。それと、暗くて静かな部屋
どこで、間違えたんだろう?
隣から
深夜の電車
誰も近くに座っていないはずなのに
僕と先に乗っていた女の人以外
いないはずなのに
女の人の
離れたところに座ったのに
声が聞こえる
子供が泣く
子供なんていないはずなのに
声が聞こえる
子供が泣く
父親があやす
男の人なんていないはずなのに
ずっとずっと
声が聞こえる
さっき、女の人は降りたのに
まだ
聞こえる
声が
声が聞こえる
駅に着く
急いで電車を降りる
改札を通って
街灯もある、いつものみち
でも、まだ、聞こえる
声が
聞こえる
ある日、そらは泣いていました
やさしい男の子はそらにききました
「どうしたの?どこかいたいの?」
そらは、いいます
雲くんがいじわるをして、
太陽くんがかつやくできないようにしているんだ
はなしているうちにも雲はどんどんそらに広がります
そして、もっと大つぶのなみだを、そらは流しました