今日という日に想いを馳せて。
変わらぬ日常を過ごせている今に、心からの感謝を。
当たり前でないことを、忘れないように今一度。
平穏な日常が、多くの人にありますように。
『平穏な日常』
「さぁ、愛と平和について語らいましょう。」
重い重い、と俺は天を仰ぐ。
楽単だ、って先輩に聞いたから取ったこの講義。
出席票代わりの感想用紙さえ出せば、別の作業してても良いのはありがたい。がしかし、いかんせん教授の胡散臭さがむずがゆい。
曇りなきどころか更地みたいな、まっさらな瞳が学生たちをさらっていく。
俺は目があわないように、そっと左斜め前に座る女子の頭に視線を逸らした。
綺麗なつむじ。…なんか変態っぽい。今のは無し。
愛がなんだか、俺みたいな若造にはまだ語れないけど、平和ならわかる気がするよ。
今、こういう時間でしょ。
これが当たり前じゃないことを、忘れないようにするところまで含めてさ。
用紙にどう上手く書こうか考えているうちに、つむじの彼女だったら何て回答するのか、ちょっと知りたくなった。
『愛と平和』
人生はよく道に例えられる。
私の歩んできた、まだ短い人生を振り返ったらどんな道なのだろうか。いくつ岐路があって、なにが建っているのだろう。誰がいるんだろう。
でも、明確な形で見えなくてよかった、と思う。
きっと苦い思い出ばかり目についてしまうから。
当時気づかなかった美しい瞬間がそこにあるとしても、
私は見なくていい。
過ぎ去った日々は、ぼんやりと、その時々なんとなく思い返すくらいが、きっとちょうどいい。
少なくとも今は、そう思えるくらいに幸せなのだと分かるから。
『過ぎ去った日々』
「あなたにとって、お金より大事なものって何?」と聞かれた。
自分の命、家族、友達、仕事、大好きなあの本に音楽、使い込んだスポーツシューズ、思い出のアクセサリー、捨てられない映画の半券。人によってはどれも大事な物になり得る。
それらを大事にするためには、お金が必要だけれど。
私だったら「時間」と答える。お金では買えないし、当たり前にあるものでもないから。思い出として、何かを「大事なもの」に変えてくれるのも時間だ。
そう答えて、ふと胸の内が空っぽになったような気がした。
時間という答えにはあまりに「愛」がない。合理的だとしても、「世の中金だ」に近い無機質な回答だ。
私の答えを聞いたあなたは、わかりきっていたように、でも少し残念そうに笑みを浮かべて、目の前からいなくなった。
同じ質問を返す権利は、私には与えられなかった。
きっと、「大事なもの」が違ったから。
『お金より大事なもの』
見上げた夜空に燦然と輝く満月を見て、シェイクスピアの有名な台詞回しが脳裏を過ぎる。
形が日々変わるとはいえ、あれが不実だとは私は思わない。太陽だって随分気まぐれだ。
文句を言うのは容易いが、代替案を提案するのは難しい。
私にそんな台詞を投げかけてくる人がいるわけでもなし…と特に何の実も結ばない思考をぐるぐる回しながら、いつも通り家路を歩く。
『月夜』