買ってくれたばかりのゴーグルをつけて
浴槽の中に頭を沈め数秒息を止めた後、
数秒かけてゆっくり浮上する。
先生は水は怖くないと言っていたが、
本当にプールの中は“海”みたいなのだろうか。
でも明日は嫌でも行かないと行けない。
もう一度頭を浅い海の中へと沈める。
このまま泡になりたい。
フェリーの待合室に独り、船を待つ。
八月のベンチは暑さで湿り気を帯びており、
少し動いただけで感じる摩擦が気持ち悪い。
手元には、都会に住む友人からの手紙。
ある日突然ポストに入っていた。
字の汚さは相変わらずみたいだ。
本人はあまり気にしていないのだろう。
十年前の夏、あいつはこの島を去った。
こんな言い方をすると、あいつがここを捨てたように
聞こえてしまうから他の言葉を探すが、
どうもその言葉が見つからない。
思わず吹き出してしまいそうな野望を語るあいつを
ここから送り出したっけ。
だんだん遠ざかっていくあいつの姿は、
波にさらわれていくようで…
ボォーッという轟音が室内まで響き渡った。
続きは会ってからだな。
少し湿ったジーパンが、しつこく食い込んでくるのを
不快に思いながら乗り場へと向かった。
いつの話だったか思い出せない。
何の話だったっけ。んー、分からん。
寝る一時間前は、ブルーライトを浴びないようにする
のを頑張ろうと思う。
もうすぐ日付が変わるというのに、
そんな事を記すため、スマートフォンを持ち上げた。
なんか熱いな、うっすらと目を開ける。
今日の自習室のエアコンは調子が悪いようだ。
先生に温度調節していいか聞きに行こうと思うが、
四階から二階まで降りなければならないのを考えると
どうも動く気がしない。そもそも眠いのだ。
あれっ、みんな居なくなってる。時計を見た。
授業はとっくに始まっていた。ドクンと心臓が鳴った
と思うと、身体の中心から手足にかけて、
血液が巡っていくのを感じた。