7.
「お母さんおはよう。」
「・・・・」
「お母さん?」
「・・・・」
昨日の朝は普通に話してたのに。
喧嘩をした訳でも、怒られた訳でもないのに、母は私の言葉には答えず黙っている。
不思議だなと思いながらも食パンをかじりテレビを見る。
『昨夜未明、帰宅途中の女子高校生を刃物で数十箇所刺すという事件が起こりました。少女は昨夜、運ばれた病院先で、死亡が確認されました。警察は殺人事件として捜査しており、犯人は現在も逃走中で・・・』
「物騒だね。」
何度声をかけても母から返事はない。
「私もう時間だし、学校行ってくるね。」
登校中、仲のいい友達も私を無視して通り過ぎる。
声をかけてもこっちを見向きもしない。
不思議な思いで教室に入り席に座った。
「はーい。出席とるぞー。」
「○○、✕✕・・・・・」
(次は私の番だ。)
すると、みんなが一斉に泣き出した。
「○○、帰ってきてよ。」
「なんであいつが殺されなきゃならねんだよ。」
「あ、そっか、朝のニュース。」
私はふと朝のことを思い出す。
「みんな私を無視していたんじゃなくて、見えなかったんだ。」
『私昨日、殺されちゃったんだ。』
6.
ある日、私は彼を殺した。
優しくて、かっこよくて、背が高くて、頭が良くて。
誰からも好かれる完璧なくらい素敵な彼を。
理科準備室で殺した。
その事件以来、生徒はもちろん、教師でさえ立ち入り禁止になった。
犯人は分からない。
証拠もない。
ただ、彼の、彼の身体から溢れ出た血の跡だけが、理科準備室に残っている。
それ以外は何も残っていない。
私のものだと確信がつくものは、何ひとつ残していない。
完全犯罪だ。
誰も知ろうとしない、探そうとしない、だから犯人も捕まらない。
私は彼を愛していた。
ただ、愛し方が違ったのか?
なぜ私は彼を殺さなければならなかったのか。
なぜ彼は私を求めたのか。
何度考えても理由が分からない。
目を瞑ると彼を殺した時の光景が瞼の裏に浮かぶ。
温かかった、彼の身体から溢れ出る血は。
美しかった。
最高だった、純粋で無垢な彼を自らの手で殺めることができようとは。
私は今でもあの感覚が忘れられない。
あの温かさを、あの最高の感覚を、もう一度。
5.
私の生きる意味。
ふと考えた時真っ先に思い浮かんだのは君だった。
「生きる意味がないなら俺のために生きてよ。」
初めて交わした言葉。
嬉しかった。
誰のために生きるか、なんのために生きるか。
人はそれぞれ想いがあり、信念があり、ありがたさを感じているから生きている。
私にはそれがない。
死にかけていた私に初めて生きる意味を教えてくれた彼。
今では生きる糧になり、かけがえのない存在になった。
彼がいなければ私は今ここにいない。
彼の誠実さが、彼の偉大さが、彼の優しさが、
全てが大好きで、愛おしくて。
彼は私を愛してくれる。
どんな私も全てを愛してくれる。
それだけで、この世界に生まれてよかったと、心から思えるようになった。
4.
目が覚めるまでに、私の人生全てがりセットされていたら。
目が覚めるまでに全ての記憶を無くせていたら。
どれだけ楽なことだろう。
どれだけ人生が楽しくなるだろう。
目が覚めても現実は現実。
何ひとつとして変わること無く進んでいる。
辛く、重たい人生が、目を覚ますと始まる。
このまま目を覚まさなかったらどうなるだろうか。
このまま夢の中に居続けるとどうなるだろうか。
幸せに、なれるのだろうか。
どうか、夢の中だけでもいいから、目が覚めるまでは、幸せな夢を見させてください。
そう、何度願っただろう。
3.
『もし明日晴れたら、晴天だったら君の元へ羽ばたこう。』
そう決めてから、何度『明日」が過ぎただろう。
元々晴れる日の少ない私の街は雨の日が毎日続いた。
晴れるのが年に数回しかない私の街で、私の生きがいだった親友は死んだ。
私を置いて自殺した。
その日は年に数回しか晴れのない中で1番の晴天だった。
私は親友がいなくなり、生きる意味のないただの『人』
の形をした生き物になっていた。
こんな世界で生きるくらいなら、私は親友ので幸せに生きたい。
ただ、そう思いたった日から晴れの日が無くなった。
親友が私に死ぬなと言っているかのようにタイミング
よく晴れの日は無くなった。
晴れの日がこないとわかっている今日も明日も、来年も、死ぬまで思い続けよう。
『もし明日晴れたら、晴天だったら君のことを忘れよう。』