私には大好きな人がいる。
幼稚園から中学校までずっと一緒の彼。
でも彼はうまくクラスに馴染めなくって、所謂、特別学級で授業を受けている。
だから、誰にも言えなかった。
クラスで馬鹿にされている彼を好きだと言えなかった。
我が身可愛さで彼のことを守れない。彼は、こんな空間が嫌であそこへ行ったというのに。
いつまでも、は唇を噛み締めて、彼の悪口を聞き流すだけ。
大好きな人を守れない。結局は自分のことしか考えていない。そんな私が彼を好きだと言えるわけがなくて、ずっと隠し続けてきた。
誰かに相談する資格も、彼に気持ちを伝える資格もないから。
私の好きは、一生彼に届くことはないのだろう。
アルバムのページをめくった。
3歳。色んなもの食べれるようになって楽しそう。
小1。初めての学校で毎日楽しそう。
小6。ちょっとだけ反抗期でカメラが嫌いだったね。
中1。完全に思春期全開で、中学生の頃の写真はほとんどない。
高1。表情が柔らかくなったね。毎日友達と遊んで、勉強のことも心配になるくらいだった。
成人。すっかり大人になったね。初給料で私に財布を買ってくれた。
ペラ、ペラ、ゆっくりと音を立ててページをめくる。
懐かしいね。
もうあなたには会えない。
数年前に難病を患ったあなた。まさか私より早く逝くなんて思わなかったな。
こうしてページをめくるとあなたが側に居てくれるようで、
ねぇ、もう一度だけ…
ページをめくる。もう、無駄だと分かりながら。
夏の忘れ物を探しに行く。
そんな馬鹿げたことを言い出したお前が、何を思っていたのか、その時は分からなかった。だから何も言えなかった。
それでもお前は俺の手を無理矢理引いて、まだ照っている太陽より明るく笑った。
俺とお前はずっと一緒だったもんな。相棒でライバルで、友達。そして、俺の好きな奴。今は、恋人。
お前の、俺たちの忘れ物。
丁度こんな暑い夏に付き合った、俺たちの忘れ物。
何気ない駄菓子屋、何気ない商店街、何気ない日常。
他の人にとってはそうかもしれない。
それでも、俺たちには全てが新鮮だったあの場所に、まだ体験していない忘れ物を探しに行こう。
俺たちの、記念日を。
8月31日、午後5時
何分かまでは覚えてないけど、君が俺の前で死んだ。
__8月31日午後5時!バイバイ!
そんな陽気な声で地面に飛び込んだ。
途端、下からグシャっという肉の弾ける音が聞こえる。あまりの衝撃に動けなかった。いきなり呼び出されて、屋上に来た途端に君は消えた。
止める隙さえなかった。
なぜ俺なのか。それすら分からずに8月31日、午後5時元気に死んでいった。
その場には一枚の紙だけが残されていた。
そこには君からのメッセージが書かれている。
「これで、君は私のことを
夏の終わりに必ず思い出してくれるよね?」
その一言だけだった。
あぁ、その通りだよ。この性悪女が。
心の中の風景は
今日、美術の時間に「心の中の風景を描く」というお題がでた。
思い付かず、隣の席の人の画用紙を覗き込む。そこには暖かな太陽と綺麗な花畑が描かれていた。逆の机を覗き込むと、一つのベットが描かれている。
私は未だ真っ白の画用紙を眺めるだけ。
考えてみれば今までの人生、何をしていたんだろう。何を思っていだんだろう。
そう問うてみても何も分からなかった。
そう、「何も」おかしいな。
今までだって、思い出とか……あれ?
嬉しい事とか…悲しかったり……怒ったり…喜ぶ事だって……あれ、分からない。
そうか私の人生全部、「なんとなく」だったっけ。
朝起きて、学校に行って、誰かと話して、部活して、帰ってきて、寝る。
全て「なんとなく」で、自分で考えたことなんてなかったな。
じゃあ、描くものもないか。
私の心の中の風景は、真っ白で何もない。
寂しくもないけど、まぁ…いつも通りだね。