幸せの青い鳥の話。孤児院で読んだんだ。
結局、幸せは自分たちが元々いた場所にあったんだっけ?
そんな綺麗事が信じていられるうちは、私の幸せはここにあるんだよね。
でも、それが綺麗事だと気づいた瞬間に青い鳥は逃げていく。いや、青い鳥の幻覚は見えなくなるんだ。
私は気づいてしまったんだ。
あの話は親のいない私達のために、気休めに読まされていた話だった。
ここにある。そう信じていられたのはいつまでだったかも分からない。
でも大丈夫。私の青い鳥はいなくても、私の居場所はここにある。
幸せとは言い難いけど、居場所があるだけありがたい。
青い鳥なんていなくていい。親なんていなくていい。友達なんていなくていい。綺麗事なんてなくていい。
泣き方だって分からなくていい。
寂しいって思えなくてもいい。
私の帰る場所はここにある。
素足のままで砂浜を歩いた。
素足のままで草原を歩いた。
素足のままで道路を歩いた。
素足のままで…どこまで来たのだろう。
僕は、いつから歩いているのだろう。
足が冷たい。熱い。痛い。疲れた。
でも、まだ歩かなきゃ。助けてって言わなきゃ。
地震。僕の家族が下敷きになってるんだ。死んじゃうかもしれないんだ。誰か、誰か、助けてよ。
あ、人がいる。助けて。助けて、助けて!
ちょっと何するのさ、僕の家はあっちだよ。ねぇ、なんでそっちに行くの?なんで僕を「ホゴした」って言ってるの?ホゴって何?お願い、僕の家族を助けてよ。
素足のままの僕を手当てしながら「キュウジョタイ」って人が言った。
僕の家族のところはもう見に行ったんだって。でも、僕の家族はいないんだって。多分、死んだってことだよね。まだ何も知らない僕でも分かったよ。
僕に家族はいない。いなくなった。
素足の痛さが僕を立たせなかった。
もう歩くことさえ出来なくなってしまった。
この足で君の隣を歩くことは叶わないんだね。
スマホを見ながら運転をしていた車が突っ込んできたんだ。
君が轢かれそうになったから、君だけは守らなきゃって君を突き飛ばして、代わりに俺が轢かれた。
次目覚めた時には足が動かなくなっててさ。リハビリしたって一歩も歩ける様になんてならなかった。
退院した今だって、車椅子を君に押してもらっている。
喋れる、聞こえる、見える、匂える、触れる。
なのに歩けない。もういっそのこと殺してくれればよかったのに。君の横を歩けないなら、君の横顔を見られないなら、生きている意味なんてない。
君の手を引けない。君の手を煩わせている。
お願いだよ神様。
もう一回だけ、いや、もう一歩だけ、彼女の隣を。
あの日、君がいなくなった。
僕の恋した可愛らしい君。何人もの男に言い寄られるほど美しく可憐な君。
街に出掛ければ必ず声をかけられる。
長く揺れる金髪に、頬に輝く星の様なそばかす。
ラプンツェルの様に美しい容姿と明るい性格。
そんな君はあの日、君に狂愛していた男に殺された。
自分だけのものにしたい。そう思って殺したらしい。
美しさとは、時に人を狂わせてしまうものという事をその時初めて知った。
話したことすらなかった。
その美しさに息を呑んで、遠くから見ているだけだった僕は君の死を哀しんでも良いのだろうか。
あぁ、僕には、何ができたんだろう。
1人の話した事もない人間が居なくなった。
それだけのはずなのに、この街は見知らぬ街へと変わっていた。
君と初めてのお家デート。
雨で無言が目立つ。
そんなドキドキ感が心を落ち着かせない。
外から遠雷の音が聞こえる。
「きゃっ!」なんて女の子らしい声を出して君の袖を軽く掴むあざとい仕草。
本当は雷なんて怖くない。雷を怖がる友達を鼻で笑った事もあるくらい。
でも、君の前では可愛くいたい。
君の前にいる私は全部私じゃない。顔も髪も、服装も部屋も声の高さまでも嘘だ。
不細工な顔をメイクで隠す。癖っ毛の髪をアイロンでストレートにする。服と部屋は君好みの可愛らしい雰囲気で。低い声はワントーン上げる。
君といられるならいくつも嘘をつくよ。
まだ遠雷が鳴ってる。小さい音でも怖がるふり。
君の赤く染まる頬を見逃さない。
もっと、もっと、君を依存させたい。
絶対、逃さない。