虹の始まりには宝物がある。まだ、誰も見つけたことのない金銀財宝。それは虹の始まりなんて無いから言えた事。
でも、君はずっと虹の始まりを探している。
君は子供の頃絵本で見たあのお伽話を信じている。
だけど、ないものを探しても意味がない。あの日、そう言ってしまった。
「でも、希望がないと人は生きられないから。」
静かに、そして冷たく、君が言った。
そんな君の言葉が強く心臓に突き刺さった。
人間は誰もが何かに縋っている。大体は、自分が心動かされたものだろう。
きっと君は、それが子供染みていただけで、他の人となんら変わりはない。
それがないと君は生きていけないんだと悟った。
虹の始まり。それは君の生きる希望。
本当はないもの。でも、君が生きられるなら、なんでも良いだろ。
僕のオアシス。君が、君だけが、僕のオアシスなんだ。
家でも学校でも、どこへ行っても孤独だった。どこに居ても、誰と居ても、邪魔者扱い。苦しかった。
そんな僕が見つけた孤独でも許される場所。図書館。
そんなとこに現れた君。「この席、いいですか?」花のように柔らかな笑顔で言った君。可愛くって顔が火照った。声を出すことが出来ずに、精一杯うなずいて返事をする。
それからというもの、僕が図書館にいると君は必ず僕と相席をした。僕はいまだ何も話せずに黙り込む。
今まで図書館は「孤独でも大丈夫な場所」だったのが「孤独を埋めてくれる場所」になっていた。
君が僕のオアシスになってくれた。
君のことなんて、何も知らない。いや、知らないままでいい。もし、知ってしまった時、君がオアシスとは程遠い存在だったら…考えるだけで恐ろしかった。
孤独を埋めてくれる君には、僕の理想のままでいて欲しい。
ずっと、君のことをオアシスだと思っていたい。
俺には付き合っていた彼女がいた。でも、顔も、声も、匂いも思い出せない。
どうして別れたのかも分からない。でもきっと、俺の記憶喪失のせいだ。交通事故にあった。その衝撃で記憶がなくなった。
事故に遭ってから彼女には会ったことがない。「彼女がいた」という事だけが知らされた。
でも、どうしても思い出したくて、俺が交通事故に遭った場所に行ってみた。そこには花が置かれていた。
俺は死んでいないのに。そう思ったが、花の横に置かれている手紙には女の子の名前が書かれている。
あ…彼女の名前だ。記憶はない。でも、ふとそう思った。
顔も声も匂いも思い出せない。でも、事故に遭った時、彼女の頬に伝った涙。だんだんと冷たくなっていく彼女の体温だけを思い出した。
あぁ、彼女は、俺を庇って死んだんだ。
ただ、それだけを思い出した。
それだけ。だけど、俺は彼女に死んでほしくなかったんだと思う。
あぁ、なんで、なんで、俺なんか庇ったんだよ。
何も思い出せないのに後悔、そして、コンクリートに涙の跡が残った。
私は夏を生きられない。
だから半袖を着ない。短パンも履かないし、スカートだって分厚いタイツを履く。髪だって括れない。
私に似合うのは、孤独で寂しい冬。夏のように爽やかで賑やかな雰囲気は似合わない。
長袖とタイツ、長い髪に隠した秘密。体にできた醜い痕。
実の母から受ける愛という言い訳を持つ暴力。義理の父から受ける教育という名の性加害。
もう諦めてしまった。汚れた体を受け入れてしまった。その時点で、覚悟はできていた。
実の父から貰った最後の贈り物。最後の愛。シンプルなボーダーの半袖。大分子供っぽかったけど、着たかった。だけど、一度も着ることはなかった。
でも、最期くらい、着てもいいよね?
お父さんから貰った半袖を着て、タイツを脱ぐ。屋上で髪を括り開放的な気分に浸った。
あぁ、終わりだ。
最期の夏。最期の半袖。サヨウナラ醜い私。
「もしも過去へと行けるなら」きっと、お前は時間の無駄と言って考えもしないんだろう。
俺も、前まではそんな気持ちだったよ。
でも、お前がいなくなったあの日から、少しだけ考えてしまうんだ。
あの日、お前が死んだ、あの時から。
人より優れてて、考えが大人びてたお前は周囲から浮いてしまった。たったそれだけの理由で、お前に対する嫌がらせが始まったんだ。最初は軽いイジりで、お前も気にしてなかった。だけど、だんだんエスカレートしていって、お前は不登校になった。
いじめだって、分かってた。なのに、怖くて、弱くて、止められなかった。
お前が不登校になったその日から毎日、毎日。家に通った。でも、お前の返事はなかった。
あの日、お前の部屋の鍵が空いてたから思い切って入ってみた。
そこで俺の目に飛び込んできたのは宙に浮いたお前だった。目には生気がなく、四肢をだらんと下げている。死んでるって一目でわかる状態だった。
あぁ、俺が、あの時止められていれば。俺が、お前を守れていたら。
もしも過去へと行けるなら、俺は、今度こそお前を…