白藤桜空

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7/19/2023, 4:10:43 PM

『G』
 ねえ猫ちゃん。何を見ているの?
 お空かな、雲かな、それとも鳥さんかな?
 あれ、こっちを見てどうしたの?
 今はねこじゃらしもお菓子も持ってないよ。あ、それとも撫でてほしいのかな? かわいいね。撫でてあげようね。
 おーよしよし。……なんでずっと私の後ろを見ているの? 私の後ろに何かいるの?
 猫ちゃんの視線の先を追うとそこには​​─​​─。
テーマ:視線の先には

7/19/2023, 4:49:31 AM

『私だけであって』
 私だけ? あなたを見ているのは。
 私だけ? あなたに見てほしいのは。
 私だけであってほしい。だって、この想いは間違いなく〝恋〟だから。
テーマ:私だけ

7/17/2023, 1:37:53 PM

『物心』
 物心がついた瞬間は衝撃的だった。それは誕生日の翌日だった。何か天啓でも受けたかのように、いきなり意識が覚醒したのだ。前日のことはうっすらと思い出せるような気がして、ぼやけたようになっている。それよりさらに数日前はまったく思い出せない。それが物心がついた日の境目だった。
 今でもその記憶はなんとなく愛おしい。だって私が私になった瞬間だから。
テーマ:遠い日の記憶

7/16/2023, 2:04:15 PM

『絵描きの心』
 きれいな雲。鮮やかなグラデーション。どのブラシで描けばああなるのか。いや、ひとつひとつ手描きがいいか? でも手描きは面倒なんだよなぁ。
 美しい入道雲、の一言でそれぞれの心に美しい入道雲を浮かべてもらえる文字は、なんと楽で、けれどなんと他人任せなことか。
 でもそれがいい。
テーマ:空を見上げて心に浮かんだこと

7/16/2023, 7:28:26 AM

『銃口』
「なあ、終わりにしないか」
「は?」
 まさかのセリフに振り返ってその真意を聞こうとした。だが、後頭部に当てられた冷たい筒状の感覚のせいでそれは叶わなかった。
「まさか俺に銃を向けるなんてな。これが飼い犬に手を噛まれるってやつか?」
「どうとでも言うといい。もう何を言っても遅いんだから」
 安全装置を外す音がする。確かに何を言っても遅いのだろう。俺はとっさに手にしていた拳銃から手を離すと、両手を挙げて抵抗する意思がないことを示す。
「分かった。どうせ死ぬなら素人に殺されるよりお前に殺される方がマシだ。まあ素人に殺されるようなヘマやるぐらいなら殺し屋なんてやらない方がいいがな」
「強がり言うなよ。俺のこと素人に毛が生えた程度ってずっと言ってたくせに」
「そりゃお前、俺に比べたらどんなやつでも素人同然さ」
「よく言うよ。俺なんかに後ろ取られておいて」
「俺も年取ったのかもな」
「そうかもな」
 一瞬降りる沈黙。相棒はいつもこうだ。言いにくいことがあると、少し黙って思考に沈む。そして考えが決まった頃には、もう揺るがない。
「今までありがとう。父さん」
 サプレッサーで音の殺された銃声がわずかに聞こえたあと、物言わぬ死体となった男が地面に倒れる。
「大丈夫、俺もすぐ逝くから」
 サプレッサーを外して撃ちやすくした少年は、自分のこめかみに銃口を当て、一息に引き金を引く。
 かつて殺せぬ者はいないと謳われた天才殺し屋も、歳を取って腕前が落ちた。もう用はないと判断した組織が殺し屋の男を殺すのに選んだのはその息子だった。当然ながら息子は拒んだ。だが見せしめに母親を殺された息子は、父親を殺す他なかった。父親も、それを知っていて殺された。
 誰にも救いのないこの世界に立ち上る硝煙の煙は、線香の煙を想起させた。
テーマ:終わりにしよう

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