『手と手』
手を取り合うのが幸せ、なんて誰が言ったのだろうか。
手を取り合ったら最後、その人のことをすべて理解しなければならないなんていう思考を抱いてしまう。そんな愚かな考えに陥るのが人間の悪い癖だ。
なんというエゴイスト。勘違いも甚だしい。幻想にすがるのも大概にしろ。
でも。
手を取り合わないと生きていけないのも人間だから。
さあ、手を取り合って生きていこう。
けれど決して他者のすべてを掌握しようとは思うでない。でなければ、その手を離されるのはあなたの方だから。
テーマ:手を取り合って
『友達?』
私だけが知っているあなたの秘密。
あなただけが知っている私の秘密。
それはきっと歪な関係だけれど、私たちには欠かせない優越感。そして秘密を共有してないと保てない劣等感。
何も無くても友達でいられれば良かったのに。そう願ったところでもう遅い。
私たちは秘密でしか繋がれないのだから。
テーマ:優越感、劣等感
『告白』テーマ:これまでずっと
これまでずっと言えなかったんだけど、最後のお別れの前に言うわ。
あのね、私ずっとあなたのことが好きだったの。
でも素直に言えなくていじわるばかり言ってたわ。本当に悪いと思ってる。ごめんなさい。
けどね、おあいこの部分もあると思うの。だってあなた、いつも私のこと嫌いだって言ってたじゃない。そう言われる度に傷ついていたのよ。
そんなこと今更言われても困る?
だってしょうがないじゃない。明日にはあなたは結婚するんだもの。それに、私だってあと一ヶ月しか持たないんだもの。これが最初で最後のチャンスだったの。
好きになってごめんなさい。でも後悔はしていないわ。
あなたはどうか、奥さんを幸せにしてね。
これからずっと。
『迷ったときには』テーマ:1件のLINE
ポコン、と音が鳴る。
あの人からの連絡じゃないか、とすぐにスマホを見るが、実際はただの公式アカウントからの通知で、私はそのアカウントの通知をオフにする。
ポコン、と音が鳴る。
今度こそあの人からの連絡じゃないか、とスマホを見るが、『あの人から連絡来た?』という友達からの確認の連絡で、私は未読スルーをする。
ポコン、と音が鳴る。
今度こそ、いやきっと違う。相反する期待と失望を胸に抱えながらスマホを見る。するとやっと、好きなあの人からの連絡だった。
嬉しい、でもどう返信しよう。今度は違う悩みが頭を駆け巡る。
既読を付けられぬまま、一分、五分、十分。早く何かを送らないと、連絡を無視したみたいになる気がする。
選んだ私の答えは──。
ポコン、と音が鳴る。
気になるあの人からの返信だろうか。スマホを見ると、
「ふふ。こんなスタンプあるんだ」
可愛いけれどちょっと変わったスタンプが送られてきたのだった。
『それでも夢を見る』テーマ:目が覚めると
目が覚めたら別人になっていた。
なんて言うのはおとぎ話ではよくあるが、現実ではまず起こらない。
現実で起こらないことをくだらないと言うことは簡単だが、それでも私たちは夢想せずにはいられない。
『目が覚めたら自分以外の誰かになってますように』
そう願わずにいられないほど今の自分が嫌でしょうがない。そんなときもある。むしろそういう願いを持つ人が多いから、『目が覚めたら自分以外の誰かになっていた』というものがエンタメになっているのだろう。
ならばいいじゃないか、夢を見るくらい。夢を見て夢を語って夢を作る。人間に生まれた特権だ。存分に楽しもうじゃないか。
ああ、目が覚めたら猫になってないかな。