白藤桜空

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7/9/2023, 3:14:33 PM

『双子』テーマ:私の当たり前
 私とあなた。二人で一人。それが双子ってものでしょう?
 そう当たり前に思っていたけれど、あなたは違ったのね。
 私の知らないところで私の知らない人と会っている。
 そんなの許せない。私は全部あなたに教えているのに、なぜあなたは言ってくれないの?
 考え方が違うというのなら、考え方を一緒にすればいい。
 理解してくれないあなたとはもうさようならするわ。
 ばいばい、私。

7/8/2023, 1:38:02 PM

『私だけの明かり』テーマ:街の明かり
 街の明かりの数だけ生活がある。
 そんなような言葉がある気がするけれど、私はその考え方が好きだ。それだけの数が生きていて、そして無関心であるという証拠だからだ。
 見てほしい。見られたくない。
 話したい。話したくない。
 そんな矛盾する感情を抱くのが人間だと思う。
 だからこそ、自分が街の明かりの一部分として溶け込んでいるときは気楽な気持ちになるし、虚しくもなる。でも嫌いではない感覚だ。
 そして、街のどこにでもある明かりとして扱わないでいてくれる人がいることに感謝できるのが、一番好きだ。

7/7/2023, 5:02:57 PM

『織姫と彦星』テーマ:七夕
 一年に一度しか会えない織姫と彦星の話。
 くだらない。私にはなんの関係もない話。だけど毎年私の気持ちを憂鬱にさせる。だって、誰も私の誕生日だってことを認知してくれないから。そう、思っていたけれど。あなたは違った。
 私の彦星はどこにもいない、なんてくだらない冗談を言ったら、僕を君の彦星にしてくれないか? なんてクサイセリフで返してきた。そんなことを言ってきた人は初めてだった。
 最初は少し気持ち悪いと思った。でもその気持ちは本当だったみたいで、あなたはいつも私に真剣に向き合ってくれた。だからほだされたのかな。でも確かに愛されている実感があなたのことを信じさせてくれた。
 私たちは晴れて恋人に​​なった。それから結婚もした。でも幸せなのはそこまでだった。
 あなたが死んだのは私の誕生日だった。ケーキを買った帰り道の事故だった。
 誕生日であり命日である、という事実が私に重くのしかかった。けれど考え方を変えた。私たちは同じ日に生まれ、同じ日に死んだのだから、一年に一度会えているのではないか?
 それから私は織姫になった。

7/6/2023, 4:50:09 PM

『遺言』テーマ:友だちの思い出

「今日から僕たちは友だちね!」
 なんて陳腐なセリフだろう。でもそんなことを言ってくれたのはお前が初めてだったから。
「誰も君のいいところを知ろうとしない」
 なんて愚かなセリフだろう。俺にいいところなんてないのに。
「そんなことない。じゃなきゃ友だちになんかならないさ」
 なんでそんなことを言ってくれるのだろう。だって俺は​​─​​─。

「いたぞ! 狼だ!」
「逃がすな! 囲い込め!」
 恐ろしい形相をした人間たちが俺のことを追い立てる。
 俺はあいつに会いに来ただけなんだ。
 そう伝えているつもりでも、俺の言葉はあいつにしか通じない。
 あいつはどこだろうか。必死に逃げながらあいつの姿を探すと、森の中で見つけた。
 良かった。他の人間たちにはまだバレていなかったんだ。
 安堵しながら近づくと、お前はいつも通りアホらしい底抜けに明るい笑顔を俺の方に向けてくる。はずだった。
「やめてぇぇぇ!」
 ​​​​​​─​​─なんだ?
 ぬるくて、熱くて、痛い。
 視界が霞んで目の前のものが見えづらい。だけど俺の頬がいつもの優しい手で撫でられているのだけは分かる。
「ごめん、ごめんなさい、守れなくて」
 どうやら胸を槍で突き刺されたらしい。道理で痛い訳だ、と、妙に冷静になった頭が分析する。
「どうしよう、どうすれば君は僕を許してくれる?」
 許す? 何を許すんだ?
「だって、僕のせいで君が……」
 遅かれ早かれ命には終わりが来る。ただそれが俺の場合強引に早められただけで、お前は何も悪いことをしていないのに。
 ああ、でも、そうか。そうだな、人間は許される理由が欲しいのかもしれない。なんとなくそう思った。だったらこれはどうだろうか。
 人間と同じ言葉では話せないのに、お前にはいつも俺の意思が通じていんだから、これもきっと伝わるだろう。だからどうかお前は​​─​​─。

「それがおじいちゃんのお友達の思い出?」
「そうだよ。心優しい白銀の毛皮を持ったお友達さ。ほら、あそこにいるだろう?」
「暖炉の近くのわんちゃんの剥製?」
「彼は狼って言うんだよ。あのとき僕たちは確かに心が通じあっていた。だけどそれを村の人は理解してくれなかった。だから彼は殺されてしまった」
「それは、とても悲しいことね」
「うん。でもね、彼は大事な遺言を残してくれたんだ」
「遺言?」
「そう。彼はね、こう言ったんだ」

 生きろ。俺の分まで。

7/5/2023, 2:55:44 PM

『一番星』テーマ:星空
 星空が消えていく。朝がやってきたのだ。
 私の命も消えていく。終わりがやってきたのだ。
 終わりは始まりとも言うが、果たして本当にそうなのだろうか。それは死んでみないと分からない。
 けれど、ああ、できれば神様、私を星空に連れていってくれないでしょうか。
 あの子を残して逝かねばならないなら、どうか、あの子を見守れるようにしてくれませんか。
 恥と罪の多い人生を送ってきましたが、せめてそれだけは願わせてもらえないでしょうか。
 どうか、どうか、どうか。
 あの子の一番星にならせてください。

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