入道雲って積乱雲の俗称でね。
そう語る姿を見ながら、私はうんうんと首を縦にふった。
その反応に気を良くした彼女はニコニコと解説を続ける。
別にその話に興味があるわけじゃないんだけどな。ってちょっとだけ申し訳ない気持ちになって。
でも話は続けてほしくて。
だって、好きなことを語る彼女の顔は何時も以上に可愛いんだ。
彼女いわく入道雲が出たあとは激しい雨や雷が落ちるらしい。
興味ない話にあるふりをしてるってバレたら、私にも雷が落ちてしまうだろうか。
なんてふと考えてみる。
それとも、彼女の瞳から雨がこぼれたり、とか。
ぶるり。
ちょっとだけ背中が冷たくなった。
一旦考えるのはよそう。
そう、思っていたのに……。
陽気に語る彼女が急に話を止めてどうしたのって視線を向けてきた。
ほんと、こういうときだけ勘がいいの、勘弁してよ。
何でもないよ。って言いたかったけど、このまま隠し続けてバレてしまうことがちょっとだけ怖かったから。
「ほら、空模様怪しくなってきたから!雨大丈夫かなって思って。そろそろ帰らない?」って窓の外を指しお茶を濁してみる。
彼女の顔を曇らせたくなくて。いつも太陽のように輝いてる顔でいてほしくて。そんな彼女が大好きで。大好きだって言いたくて。でも言えなくて。
心にモヤモヤと雲がかかる。
私は実らない気持ちを抱えて今日も彼女の隣にいるのだった。
『夏』
カンカンと照らされる日差しの中、私はそこに立っていた。
蝉時雨を背中に受けながら、額から汗を流す。
カンカンカンカンと踏切の鳴る音が聞こえる。
チリンチリンと風にそよぐ風鈴の音。その音の先で氷をゴリゴリと削る音。かき氷かな。
ここに立ち始めてからどれくらいの時間が経っただろう。額からは汗がたらりタラリと零れる。それをその都度丁寧にハンカチで拭いながら今日も暑い、なんて。
両手で手で握ったカバンをちょっとだけ膝で蹴り上げながら、ピュオ〜っと吹く風を肌で感じた。
「ごめん!おまたせ!!」
そんなところに現れたのは、私の待ち人。
麦わら帽子を被り、派手すぎない色のワンピースをまとった彼女はひまわりを感じさせる笑顔で手を振る。
待ち合わせからは10分も過ぎている。しかも連絡なし。ほんとは会ったら凄く怒ってやろうって気でいたのに大失敗だった。
彼女の笑顔を見た途端私の怒りはすっと収まり、それが愛しさへと進化する。
はあ、私ってばこの笑顔に弱すぎ。
自分の弱さを抱えニコニコと微笑むあなたに私は適う日は来るのだろうか。