【明日世界がなくなるとしたら、何を願おう】
その瞬間、恐らく俺がアンタの側に居る事はないだろうから。
ならせめて、アンタが苦しまずに逝けるように。
あわよくば、最期に思い浮かべるのが俺であるように。
【楽園】
訪ねればいつも優しく微笑んで俺を迎えてくれた、貴女の暮らす小さなワンルームが俺の好きな場所。
貴女と居ると、自分でも驚く程穏やかな気持ちで居られる。
身の内に潜むどす黒い感情も。
時折暴れ出す、己に対する憎悪にも似た怒りも全て中和されて。
それでいて貴女の前ではいい人の振りすらしなくて良いなんて。
自分が受け入れられていると、素直に信じる事が出来たのは初めてだ。
他人を愛おしいと思えたのも、貴女が初めてだったんだ。
こんなに無数の人間が存在する世界で、俺が欲しいのは貴女だけ。
だから失いたくない。守りたい。
貴女の存在と穏やかなこの場所が、俺の聖域であり楽園なのだ。
【刹那】
珍しく彼と喧嘩した。
絶対に譲れないと思っていたけど、今となっては心底下らない意地の張り合いだった。
目の前の彼は唇を真一文字に結び、眉を顰めて私を睨む。そんな拗ねた顔すら格好良くて―――
喧嘩中だというのにそんな事を思いながらうっかり見惚れた刹那。
柔らかい感触が私の唇に触れて離れていった。
「そうやって誤魔化そうとする……!」
とは言うものの、完全に戦意喪失し声も明らかにトーンダウンしている私を見て、少し困ったように彼は笑う。
「何か……止め時分からなくなってたし」
「考えてみればビールがスーパード○イかプ○モルかなんて、どうでもいいよね」
「両方買えばいい話だしな」
かくして、不毛な喧嘩は終了したのだった。
【生きる意味】
例えば夢を叶える為
例えば大切な人を幸せにする為
例えば社会的に成功する為
例えば趣味を極める為 etc.
色々あっていいし、人生の途中で変化していく事もあるかも知れない。でもきっとどれも正解なんだと思う。
自分で見出だし、そこに誰の意見も価値観も介在せず、命尽きるその日まで全うするもの。
己の心の中にのみ存在する、究極の自己完結。
【たとえ間違いだったとしても】
アンタに惚れている自覚はあるものの、これが情欲に起因する執着なのか又は愛なのか、俺には正直判らない。
俺、愛し愛された記憶がないものだから、いざ愛について真面目に考えてみてもボンヤリとして存在すら曖昧で、未だ納得のいく答えは出ないままだ。
ただ、判らないなりに俺のアンタに対して抱くこの感情が『愛』と呼ぶものなら良いなとは思ってるよ。
それがたとえ間違いだったとしても、結局のところアンタは俺にとって特別な女である事に何ら変わりないって話。