【刹那】
珍しく彼と喧嘩した。
絶対に譲れないと思っていたけど、今となっては心底下らない意地の張り合いだった。
目の前の彼は唇を真一文字に結び、眉を顰めて私を睨む。そんな拗ねた顔すら格好良くて―――
喧嘩中だというのにそんな事を思いながらうっかり見惚れた刹那。
柔らかい感触が私の唇に触れて離れていった。
「そうやって誤魔化そうとする……!」
とは言うものの、完全に戦意喪失し声も明らかにトーンダウンしている私を見て、少し困ったように彼は笑う。
「何か……止め時分からなくなってたし」
「考えてみればビールがスーパード○イかプ○モルかなんて、どうでもいいよね」
「両方買えばいい話だしな」
かくして、不毛な喧嘩は終了したのだった。
4/28/2023, 9:51:45 PM