【もしも未来を見れるなら】
こう見えてその時その時の己の選択に責任持って生きてるつもりだから、自分の未来にはあまり興味ないんだ。
仮に未来を垣間見た結果望んだ未来じゃなかったとして、それを回避する為に敢えて別の道を選び直したならそれはもう僕の人生ではなくなる気がするよ。
未来なんて見れなくていい。
この先ハッピーでもドン底でも、それが自分で悩み苦しんで出した答えなら、僕はきっと後悔しないだろう。
【無色の世界】
雨雲は益々色を濃くしていて当分……いや、夜半くらいまで降り続きそうだった。
雨は、嫌いではない。
余計な音を遮断し、視界をぼかして形あるものを曖昧にする。
すれ違う人々は皆、雨から身を守る為目深に傘を差し、表情もぼやけて窺えない。男か女か、あるいは大人か子供か……その程度しか判別出来ない。
人の姿も、自分の姿も水滴で輝きながら輪郭を失う。そんな無色の世界とも言えそうなこの曖昧さが、俺は好きだった。
それなのに――
河川敷の隅、小さな古い東屋に佇む見知った女性の姿に、俺は歩みを止める。
(どうして、君だけは……)
何故自分の眼はこんな日にも、いやどんな時も彼女の姿をはっきりと鮮やかに捉えて放さないのか。
その意味に俺が気付いたのは、つい最近の事だ。
【届かぬ想い】
彼には、私と出会うずっと前に心を通わせた初恋の女性が居たと、聞いた事がある。
訳あって結ばれる事はなかったが、何処かで幸せでいてくれればそれで良いと言った彼の、何とも言えぬ諦め切った笑みを、私は今でも忘れられない。
そんな相手にこの秘めた想いを、告げる勇気も度胸も私にはなかった。
【遠くの空へ】
引き留めたかった。
二度と会う事が叶わないなら、最後くらい本音でぶつかれば良かった。何なら盛大にワガママ言って、困らせてやれば良かった。
でもね、本当は「ついて来い」って言って欲しかった。
二度と会う事が叶わないなら、一つだけ約束してよ。
生きていて。何処に居ても、何があっても。
今はもう、遥か遠くの空へこの思いを託し祈る事しか出来ない。
【言葉にできない】
無口で口下手で不器用だけど、貴方が誰より優しくて愛情深い事を、私は知ってるよ。
私を見つめる貴方のその眼は、言葉にできない溢れる思いを何より語っているから。