あと数分で日付が変わってしまう。
なんだかそれがすごく惜しいような気がして。
楽しかった出来事も、出会った素敵な音楽も、あの人とおしゃべりした時間も、小鳥がさえずっていたあのときも、全部が昨日のことになってしまうなんて。そんなのって、ないじゃないか。
あと少し、ほんの少ししたら今日は終わってしまう。わたしをとっても楽しませてくれた今日と、お別れになってしまう。
どうにか眠気をかみ殺したあくびは、秒針の音でかき消えた。
わたしは毎日、今日にさよならを言うためにこの時間まで起きている。
さよなら、今日。
最後の秒針がかちりと音を立てた。
私のお気に入りは、遠出したときに泊まるホテルの、ゆっくりできる朝。
ゆっくり起きて、大きな鏡を覗き込むと、そこには頬に変な枕のあとがついた私がいる。
「どうやったら治るんだろう、これ」
私のお気に入りは、バスでぼんやりぼんやりする時間。
そそくさと一番うしろの左隅っこの席に座って、あくびをかみ殺しているのを誰かに悟られないように。
「悟られるってなに?誰に?ふふ、バカみたい!」
私のお気に入りは、おじいちゃんとおばあちゃんの大きな家。
おじいちゃんとおばあちゃんはもう年をとって、その負担にならないようにと、泊まることはなくなってしまったけど。
枕元で絵本を読んでもらったこと、庭で一緒に干し柿につく虫を追い払ったこと、こっそり食べさせて貰ったみかんの味。
「おじいちゃん、おばあちゃん、久しぶり。」
どれもこれも、私の大好きな、大好きで大好きで、いつかはなくなってしまうかもしれない、私のお気に入りたちだ。
誰よりも、私は幸せだ。
今日は朝からオムライスが食べられた。
私の好きなカリカリのお肉だけが入ったケチャップライスに、薄めの卵をかぶったオムライス。
あと今日は、朝回したガチャで私の好きなアイテムが出た。レアじゃなかったんだけど、私のお気に入りだったからいいんだ。
学校について、今日はテストなんだ。でも、始まる直前に見た単語がテストに出たんだよ。だからちゃーんとかけたもんね。
お昼ご飯も美味しかった!そぼろがつまったおにぎらずは私の大好物だ。ありがとう、お母さん。
いつもより早く来たバスも、席に座れた電車も、お風呂のお湯の温度が丁度良かったのも、ぜーんぶ今日はいい日だった!!
そう思える人になれるように、私は今日も眠る。
おやすみ、今日の私。
手紙が届いた。宛名はない。
シンプルなデザインの封筒の中には中身が入っているような変な重さがあった。
「誰からだろう」
【あなたは封筒を……】
A.開ける
B.開けない
→A
封筒をあけると中から一枚の手紙が。そこには差出人の宛名と共にこんなことが書いてある。
『十年後のあなたへ。元気にやっていますか。たまたま十年後のあなたに手紙を書くことができる機会があったのでこうして筆をとっています。』
その一番下には差出人の宛名が。
【差出人は……】
A.自分
B.あなたの知るあの人
→B
久々に、あの人に連絡をしてみることにした。
どうしよう、これで連絡先が変わってたりしていたら。最後にあの人に会ったのは、もう十年以上前のことだ。あの人は、まだ私のことを覚えているだろうか。
「久しぶり」
「うん、本当に久しぶりだね」
あの人は、十年前と全く変わらないままの姿だった。いや、実際には随分と垢抜けていて、いい意味で大人になったみたいだ。でも、あの人は確かに私の知っているままの姿で私に会いに来てくれた。
「いつのまに、手紙なんて書いてたの?」
私はなんだかそれが面白くって、隣を歩くあの人にそう尋ねた。
「そりゃあ、もちろん……」
あの人は昔と変わらない笑顔で、言った。
「十年後、あなたが連絡してきてくれますように、って」
どうやら私は、この人にまんまと踊らされていたらしい。
「最近出来たおすすめのカフェ、行く?私のお気に入りなんだけど。」
「いいね、行こ。話すことなんていくらでもあるんだから。」