怪々夢

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11/14/2024, 11:26:55 AM

・秋風
五日間ため込んだ洗濯物を、部屋に渡した物干し竿にかける。丸一日使っても、秋風では半端にしか乾かない。
私も秋風と同じく半人前の人間だ。
炎を巧みに操り洗濯物を乾かしていく。
私はゼロ六番。サイボーグだ。

10/3/2024, 4:05:27 AM


10/3 唐揚げ
 ドアが閉じる寸前に、何とか電車に滑り込む事ができた俺は、座席に腰を下ろす。
 今日はいつになく空いていて、目の前に座っているのは一人だけだった。大学生にしては幼く見えるその男の子は、買ったばかりの唐揚げをビニール袋に顔を突っ込んで食べている。油を垂らしながら、むしゃぶりついているが、一口食べる度に顔を捻っている。
 それはまずい時のジェスチャーなのか?それとも美味しいもの食べる時の癖なのか?俺と目が合うと気まずそうに、袋を閉じた。ただまだ未練があるのだろう。数秒置きに、ビニール袋をいじるし、割り箸で唐揚げの位置を直していた。

9/22/2024, 4:02:34 AM

 このバーは純粋無雑で黒をテーマにしていた。

「マスター、やってる?」
「ようこそ、ご来光頂きました。閉店の時間なのですが少しだけなら構いませんよ」
「よっ、磊落だね」
 そのお客は揺蕩いながら椅子に腰掛けた。
店のマスターはそれを見て、すでに聞こし召しているなと看取した。
 
その男は、「ビール、ビ、ビール」と注文を一再繰り返した。マスターは仕事に徹し、グラスにビールを鷹揚な動作で注いだ。

「マスター聞いてくれよ、俺の娘はさぁ、明眸だし、
頭もいいし、俺には勿体無いくらいの子供なんだよ。
だけど、頑固な所もあってさぁ、一旦こうと決めたら絶対に曲げないんだ。それは子供らしい、がんぜない行為じゃなくて、峻烈なまでの決意を持っていたんだ」男は涙ぐみながら話す。
 
男の背後には赤いリボンで髪を結んだ幼い女の子がいた。少女はその男の娘であった。そして椿事であるが少女は幽霊であった。少女は酔い潰れる男が心配で、成仏できないでいたのだ。男はそんな事も知らず、娘の話頭を続ける。

「体操の選手になるって言って、頑張ってたんだ。それが聞いた事もないような病気にかかって死んじゃった」と言いながら、懐から備忘録を取り出し、読み上げた。

「マスター、プロジェリアなんて病名知ってる?」
「存じ上げないです」
「もう生きてる意味なんてねぇんだ。暗闇をそぞろ歩いてるみたいなもんだ。マスター、強い酒をくれよ」
「それくらいにしといた方が、体に悪いですよ」
「おためごかしを言うんじゃねぇよ。俺みたいな客が面倒くさいんだろ?俺はさぁ、俺はさぁ」そう言ったまま男は慨嘆して泣き崩れてしまったので、マスターは接ぎ穂をなくした。
 
 少女は父に話し掛けたかったが、霊体には金科玉条のルールがあって、例え肉親でも話しかける事は許されていない。もしそんな事をしたら、死神による宰領によって、話しかけられた者の魂が取られる。
 少女は父に近づこうとし、霊力を強めてしまった。その力がテーブルに立て掛けてあったホウキを倒してしまう。
「ニャア」少女は思わず猫の声マネをしてしまい、そして後悔した。こんな所に猫がいるはずもない。
「何だ猫か」男は振り向きもせず、そう呟いた。
「ええ、赤いリボンをした可愛いらしい猫です。お客様にお酒をやめる様にと鳴いたのですよ」
 マスターは優しい目を少女に方に向けた。少女は驚いた表情を浮かべた後、マスターに一揖する。

 ここはバー「奇矯」不思議なことが起こる場所。

7/27/2024, 5:45:08 AM


7/27 俺の意思はどこに行った?

「2,000円のハンバーガーか、やめておくか」
 店の外のメニュー表を見ながら呟いていると、背後に迫る女子高生達。私は拒否権を失って、するすると店内へ。
「只今、ダブルチーズバーガーがお得です」女性スタッフの説明にそのまま注文をする。

 ダブルチーズバーガーは嫌いな玉ねぎが特大でダブルで入っていた。玉ねぎを飲み込む様にして口に入れる。ハンバーガーを味わっている余裕はない。口の周りをソースまみれにしながら、あっという間の完食。でも肉は美味しかったな。

 会計時に次回用のクーポンを貰いながらまた来ようかなと思う。

 俺の意思はどこに行った?

7/13/2024, 2:23:31 PM


7/13 祭り
今日は地元のお祭りの日だ。
俺は本屋で用事を済ませ、冷やかしで祭りに参加する。
祭りに冷やかしもクソもないが、その証拠に何も買わずに帰ってきた。
祭りの主役は光るおもちゃを振り回す子供達と、浴衣を着た女子だ。子供達はこの日ばかりは夜更かしを許され、女子は写真をSNSに上げる義務を果たせる。それ以外は只々長い行列を作るだけのエキストラだ。
しかし客の顔を見ると笑顔が見て取れる。何がそんなに楽しいのか?
トマトを投げ合う訳でもない、牛を追い回す訳でもない。ただ歩き回るだけ。しかし祭りには狂気が存在し、そのために人々を惹きつける。500円の焼きそばを買うために長蛇の列を作る、まさに狂気だ。焼そばを食べないと、祭りに参加したことを証明するスタンプは押してもらえないのか。
ふと思う。それを書き残すためだけに祭りに参加する俺こそ狂っているのか?
大通りの中央で和太鼓の演奏が行われている。これが俺の最終目的と決め、力強いバチ捌きに身を委ねる。
いつもは大通りの主役であるはずの自動車は締め出され、太鼓の演奏を楽しむ人の輪で埋め尽くされている。一際明るく輝くコンビニの前を沢山の人影が右往左往する。
さぁ、帰ろう。祭りは冷やかしでは楽しめない。

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