俺の実家には一つだけ、俺が産まれた時から変わらない物がある
リビングにあるカーテンだ
実家のリビングのカーテンは既に、下の方はボロボロに傷つき、全体的に色焼けもしている。それでもリビングのカーテンだけは変わらない
そんなボロボロのカーテンを、何で新しい物に変えないのか疑問に思っていた俺は、久しぶりに一緒にお酒を飲んでいる親父に聞いてみた。
「なぁ、親父。何であのリビングのカーテンだけ買い替えないんだよ?」
すると親父は懐かしそうな表情をしながら話始めた
「あれか?あれは亡くなった母さんのお気に入りだからってのもあるけどよ…」
母は数年前に亡くなっている
そこで親父は少し喋る口を止め、お酒を一口飲んで枝豆を口に放り込むと再び話始めた
「俺が一人でも、母さんやお前を感じられるんだよ。覚えているか?お前が何かあって泣く時は、いつもあのカーテンに包まっていたんだぞ」
「そんな事覚えてねぇよ」
俺は苦笑いしながら答えた
「それに、あのカーテンでお前が掴まり立ちしたなぁ」
親父は懐かしそうに語った
それから半年後、父は母の所へと旅立った
通夜の前日、俺は子供の時の様にカーテンに包まって子供の様に泣いた。悔いのない様に泣いた。
葬儀を終えた俺は、実家にあるそのカーテンを持って帰り、自分の家のリビングに付けた。両親との大切な思い出の品だ。
※この物語はフィクションです
涙の理由
カーテン 作:笛闘紳士(てきとうしんし)
「怖かったねぇ。ごめんね」
「ママ〜」
親と逸れた不安からようやく解放された安心感からか、少女は母親を待っていた時よりも大きな声で泣きながら、母親の元へと駆けて行った。
少女は泣きながら小さな手で、母親の服の袖を強く掴んでいた。娘と再会した母親は、優しく抱きしめ娘の頭を撫でながら
私に頭を下げて言った
「この度はありがとうございます」
「いえ」
私は通路に両膝をつき、迷子になっていた少女に目線を合わせて優しく言った
「ママ来てくれてよかったね」
少女は涙を拭いながら小さく頷いた。その時、保護してからずっと泣いていた少女が初めて喋った
「ありがとう」
それを聞いた母親は一瞬、驚いた表情をした後、子供の成長を感じた様な嬉しそうな表情で私に言った
「この子人見知りで…お礼を言う事が出来ない子なんですけど。初めてお礼を聞きました」
「そうなのですか!」
「はい。今、子供の成長を感じました」
「それは良かったです」
娘を抱いた母親は、私に深々と頭を下げると帰って行った。
それを見届けてサービスカウンターに私が戻ろうとした時、母親に抱かれながら少女は、私に小さな手を振っていた。
※この物語はフィクションです
涙の理由 作:笛闘紳士(てきとうしんし)