「怖かったねぇ。ごめんね」
「ママ〜」
親と逸れた不安からようやく解放された安心感からか、少女は母親を待っていた時よりも大きな声で泣きながら、母親の元へと駆けて行った。
少女は泣きながら小さな手で、母親の服の袖を強く掴んでいた。娘と再会した母親は、優しく抱きしめ娘の頭を撫でながら
私に頭を下げて言った
「この度はありがとうございます」
「いえ」
私は通路に両膝をつき、迷子になっていた少女に目線を合わせて優しく言った
「ママ来てくれてよかったね」
少女は涙を拭いながら小さく頷いた。その時、保護してからずっと泣いていた少女が初めて喋った
「ありがとう」
それを聞いた母親は一瞬、驚いた表情をした後、子供の成長を感じた様な嬉しそうな表情で私に言った
「この子人見知りで…お礼を言う事が出来ない子なんですけど。初めてお礼を聞きました」
「そうなのですか!」
「はい。今、子供の成長を感じました」
「それは良かったです」
娘を抱いた母親は、私に深々と頭を下げると帰って行った。
それを見届けてサービスカウンターに私が戻ろうとした時、母親に抱かれながら少女は、私に小さな手を振っていた。
※この物語はフィクションです
涙の理由 作:笛闘紳士(てきとうしんし)
10/11/2024, 5:30:05 AM