"ミッドナイト"
仕事帰りの午前零時。
しんと静まった道を歩くのもいいけれど、たまに音楽が恋しくなる。
片耳だけ付けたワイヤレスイヤホンから流れ出す音を聞きながら歩む夜道は結構好きだ。
音量は最小限に。
ジャンルにこだわりはないけど、くるくると輪を描くような曲調だと気分が上向きになる。
両耳を塞ぐと咄嗟の対応に遅れが出るかもしれないから片方だけ。
イヤホン越しでも外部の音は聞こえるとはいえ、夜道はやっぱり危ないからね。
猫の足音、とまではいかなくとも、せめて人間の足音を判別できるくらいの余地は残しておかないとなんとなく落ち着かない。
"逆光"
人工の光の無い、薄暗い建物内。
高い位置にある薔薇窓を透過した光は色付き、目前には絵画の如く現実味を失う光景が広がっていた。
祭壇の前、真っ直ぐに伸びた光を背にしたあなたは、神様はいるのよ、と言った。
神様も仏様もちゃんと私たちを見守ってくれている。時には苦難を与えることもあるけれど、きっとその先には救いがある。
だからーー
あの時、あなたは
どんな表情をしていたのだろうか
祈る事を諦めた身に、
天から降る荘厳な光は眩し過ぎて。
何も言えずに、光に縁取られたあなたのシルエットを見つめていた。
"こんな夢を見た"
「俺さぁ、ずっとこうしたかったんだよね。
だって、ずるいじゃん。
たかが血の繋がりがあるってだけで無条件にお前に愛されるのって」
手元の鈍色をクルンと回す。
目の前に散らばる肉片の群れ。
赤く、白く、黒く。鉄の匂いと悪臭を撒き散らす塊。
こんなものがあの子を苛んでいたのか、と思うと、ひどく虚しかった。
あの子はきっと喜ばない。
家族だから、と泣いていたあの子は復讐なんて望んでいなかった。
でも、いいだろう?
復讐なんて生者の特権だ。
葬式みたいに、生きている者がおこなうセレモニー。
俺が俺のために成し遂げて何が悪い。
左手の手袋を外し、薬指に嵌った指輪を見つめる。
月光に照らされてぬめるような輝きを放つ白い輪は、あの子の骨から作り出した物。
いつも、一手届かない。
失ってから、後悔してから気付くんだ。
そっと、指輪に口付ける。
「愛していたよ」
笑って、自分の首に刃を振るった。
"タイムマシーン"
バックアップ機能?と思ったけど、時空間の方か。
過去に戻れるとしたら、目的は一つ。
自分を消しに行く、ただそれだけ。
もし今、未来の自分とやらが目の前に現れたら……
まぁ、抵抗はしないだろうな。
"海の底"
夜の青さに沈んだ影を見ると、
海の底にいるような心地になる。
魚が水の外では生きられないように
人が水の中では生きられないように
それぞれが生まれ持った生きる場所というものがあるらしい。
生まれた場所に馴染めないのは、どんなに取り繕ったとしても、どうしようもなく悲しくて惨めな気分になるんだよ。