"空白"
書類上の父母は祖父母なんだよね。
養子縁組したから。
父母の欄を空白にしなければならない人よりもよほど恵まれた環境にいたと思う。
衣食住を、学ぶ機会を与えてくれた彼らには、
返し切れない恩義がある。
だから祖父母の前では記憶の中の彼女のことを母とは呼べなかった。
祖父母は形式的な呼び方に拘らない人達だったけど、それがけじめだと思ったから。
"台風が過ぎ去って"
子供の頃、里帰りだといって矢鱈と来客が増えるお盆の時期が嫌いだった。
祖父母の兄弟達はまだいい。
その子供もそれなりの年齢だ。
問題は、さらにその子供達、僕にとっては再従兄弟にあたる彼らだった。
まぁ、よく笑ってよく泣く、世間一般でイメージされる子供らしい子供だったと思う。
おおきいのは親御さんから色々言い含められているのか遠巻きにこちらを見るだけだったから問題ない。
だけど、ちいさいのは遠慮も手加減も知らずに遊べ構えと毎回寄ってきた。
本能の命ずるまま食糧を貪って、暴れて、走り回って泣き叫んで。
凄いよなぁ、自分が世界の中心だと信じて疑わないんだから。
でもまぁ、人間だって動物だもんな。
言葉の通じない動物の世話をしていると思えば、纏わり付かれるのもうるさいのも仕方無いと受け流すことができた。
だけど、お盆明け。最後までバタバタしていた彼らが帰った後。
騒がしい台風が過ぎ去って、荒れ果てた家の中を掃除するのは面倒だったし。
なにより。
はしゃぎ回る子供達を、眩しいものでも見るようにして見ていた祖父母の。
疲れた、ようやく帰った、と言いながらもどこか寂しそうな顔を見るのが、嫌いだった。
僕があの子達みたいな子供らしい子供だったら、
きっと祖父母は嬉しかっただろうなと思う。
でも、あんな風にはなれなかった。
あんな風に自由に振る舞う方法なんか知らなかったし、結局のところ、僕は祖父母から彼女を奪った仇でしかなかったから。
"Red,Green,Blue"
英字でこの字体だと、なんとなく硬質で光が透けているような感じ。宝石みたいな色がイメージされる。
今回のお題だと、ルビーとサファイアかなぁ。
どちらもコランダム(酸化アルミニウムの結晶鉱物)だけど、クロムが含まれるとルビー、鉄やチタンが含まれるとサファイアになる。
含まれる僅かな元素の違いで色が変わって別物として扱われるんだから面白いよね。
日本画でよく使用される岩絵の具には、宝石なんかの鉱物を砕いて色を作っているものもある。
アズライト、ラピスラズリ、孔雀石、辰砂 etc……。
同じ鉱物を使った岩絵の具でも、細かく砕くと、光が乱反射して白っぽくなる。
最初見た時は同じ石からどうやってこの色を出しているんだろうと不思議に思ったっけ。
粒子の大きさで色のグラデーションができるんだから、凄いよなぁ。
"仲間になれなくて"
自分がおかしいって自覚はある。
特に道徳方面。
誰かと意見が対立したら、世間的には間違いなく僕じゃない方が正解だろうな、と諦めている。
分かっているから、だからこそ、放って置いてほしいんだけどな。
なんで最初から違うと分かっているものを気にしなけりゃならないんだろうね。
"雨と君"
鞄にはいつも折りたたみ傘を忍ばせている。
軽い雨であれば折りたたみ傘を使用するけれど、風が強く雨も激しい時は通常の傘を持って行く。
つい最近、台風が来た時も傘を持って通勤した。
で、雨が止んだ帰りに持ち帰るのを忘れてしまった。
一度忘れて帰ると、なかなか持って帰る機会を掴めないのが大きい傘だ。
また強い雨が降った時のための置き傘にしようと思っていても、ポツンと残った大きな傘はその存在を意識する度にこちらを責めているように感じてしまう。
……近いうちにまた雨降らないかなぁ。