"どうしてこの世界は"
昔、祖父の知人宅には猫がいた。
人慣れしており、怖々触れた手にもっと撫でろと頭を押し付けてくるほど懐っこい猫だった。
座って本を読んでいると、膝の上に飛び乗って寛ぎ出す。時折頭を撫でないと猫パンチをお見舞いされた。
一冊読み終えて、次の本を取ろうにも猫が居るから動けない。声をかけても、ちょっと足をぱたぱたさせても、素知らぬふり。
意を決してそっと両脇に手を入れ持ち上げると、思いの外ミヨーンと伸びて驚いた。
そして猫の足先は全然持ち上がらない。
まだまだ余裕という顔で無抵抗にダランとしている。
結局膝の上からどかすことは出来ず、諦めて猫を撫でながらもう一度同じ本を読み返した。
どうしてこの世界は、この警戒心のない良く伸びる生き物を作り出したのだろうか。
こんなに無防備で大丈夫なのかと心配になったことを覚えている。
"君と歩いた道"
すぐに道に迷うから、道案内は貴女にお任せ。
一緒の歩幅で歩きたいから、隣に並んで手を繋ぐ。
通る道も、歩くスピードも貴女に一任するけれど、
車道側を歩く役目は譲れない。
"さあ行こう"
さあ行こうか。
奇跡なんて信じない。
思いの強さなんて関係無い。
感覚を研ぎ澄まして、全ての条件が揃うその一瞬だけを狙う。
ショーダウンだ。
"水たまりに映る空"
一歩足を踏み入れると掻き消える、
水面世界のリフレクション。
写真を撮って上下反転させるのも面白い。
崩すのが惜しくて、水たまりに映る空を飛び越えた。
"恋か、愛か、それとも"
貴女がいない一人きりの部屋で、何度も過呼吸を起こして倒れた。
溺れるような苦しみの中で気を失って、けれど何事もなかったように意識を取り戻す。
その繰り返し。
ぱちりと目を開け、暗い天井を眺める度に、どうしようもなく弱い自分に対して乾いた笑いしか出なかった。
貴女への想いを何と表現すれば良いのだろうか。
恋か、愛か、それとも…。
今になってもまだよく分からない。
ただ、貴女がいなけりゃ、息すら上手くできないんだ。