"願いが1つ叶うならば"
願いが一つ叶うならば。
僕という存在の痕跡を完全に消して、最初からこの世にいなかったことにして欲しい。
今まで何度、自分がいない世界を夢想しただろう。
ここにいるのが僕じゃない誰かだったら良かったのに、と幾度自嘲しただろう。
やり直しなんてしたくもないし、この記憶一つあれば今度は上手くいくなんてそんな自信もさらさら無い。
いつまで経っても僕は自身を肯定出来ないままで。
僕のいない風景はなんて美しいんだろうって。
幼い頃、画面越しに眺めるような遠い幸せを見て、
ずっとそう思っていたんだ。
"嗚呼"
偽って、欺いて。
吐きそうな程の"死にたい"を無表情の奥底に隠して。
嗚呼、結局何一つ変われやしない。
例え生まれ変わっても、もう一度初めから同じ時を繰り返したとしても、僕が僕である限り同じ事だろう。
人は変われる、と言う奴はきっと別の次元を生きている奴に違いない。
変わりたいと願って背中に羽が生えるか?
相手の気持ちを100%理解できるようになるか?
無理だ。
かつて貴女は、じゃあわたしの真似をしたらいいよ、と言ってくれた。
心の動かし方も、人との接し方も、全部。
ずっとそばにいて、同じものを見て、同じことを聞いていたらそれは不自然ではないと。
だから頑張ってきたんだけどなぁ。
貴女がいる間は忘れていたのに。
変われたと思っていたのに。
どうすればいいか導いてくれた人はもういない。
"秘密の場所"
どこまでも続く真っ白な空間に線を引いて形を作り、色を塗って音をつける。
自分の世界を区切って制限し、その物語のためだけの秘密の場所を作り出すことが、創作するということだと思う。
重厚な世界観の物語を創り出す作家は凄いよな。
どういう思考回路で物語世界を組み立てているんだろうか。
"ラララ"
パッと思いついたのは、時報かな。
440Hzのラが三回、880Hzのラが一回で時報の音。
ラの音を変換していくと、
ラ(ドレミ音名)
=イ(日本のイロハ音名のラ)
=トンツー(和文モールス)
=A(欧文モールス、アルファベット音名のラ)
言葉遊びの変換は収拾がつかなくなることも多いけど、たまにすると頭の体操になる。
"風が運ぶもの"
今日は残業調整で早上がりの日。
タイムカードを切って扉を開けた瞬間、外が明るい事に違和感を覚えた僕はもう駄目だ…。
すぐに帰宅するのは勿体無くて、いつもと違う道を通ると、いい匂いがした。
ベビーカステラの焼ける匂いって何であんなに惹かれるんだろう。風に乗って遠くまで運ばれてきた匂いにつられて、つい購入してしまった。おまけだとこっそり増量してくれた店主に礼を言って受け取る。
のんびり歩きながら口に放り込むと、懐かしい味がした。
昔、貴女と一緒に屋台巡りをしたなぁ。
ベビーカステラと今川焼きのどちらを買うかで真剣に悩んでいる貴女に、どちらも買えばいいじゃん、と言って怒られた記憶がある。
結局、両方買って半分こにした。
体重が…と言いつつ、美味しいと幸せそうに頬張る姿は忘れられない。全然太っているようには見えないし、気にせず食べたい物を食べればいいと思うのに、乙女心は難しい。