"手紙の行方"
学校の授業で、絵はがきを書いたことがある。
和紙を千切って貼ったり、色鉛筆で絵を描いたり。
課題として提出した後は、クラスでまとめて郵送する手筈になっていた。
でも、手紙を送りたい人なんて思い付かなくて。
以前住んでいた場所の住所を書いたら、あて所に尋ねあたりません、と返ってきた。
祖父母か、もしくは自分宛にしておいたら良かったのにね。そうすれば、郵便屋から手紙を受け取った祖母に困った顔をさせずに済んだのに。本当、昔から考えが足りないんだよなぁ。
戻ってきた絵はがきは細かく破いて捨ててしまった。
せっかく牛乳パックから葉書に再生したのに、こんな奴の手元に来てしまったせいで残念だったね。
"輝き"
一番初めの記憶は、ゆらゆら揺れる音の波。
透き通る青に満たされた空間は、とても美しく。
新たな一音が刻まれる度に、きらきらと、何もかもが輝いて見えた。
ゆったりと沈むように。
時には軽く弾むように。
柔らかな音で紡がれる歌によって、見える世界全てにあらゆる色が溢れ返っていた。
朧げな記憶の中で、その音色だけが鮮明に焼き付いている。
"時間よ止まれ"
止まった時間の中で劫罰に苦しむよりも
一瞬で過ぎ去る痛苦の方がずっとましだ
出来る事なら貴女より先に消えたかったのにな。
泣き事くらい言わせてくれ。
置いていかれるのはしんどいよ。
"君の声がする"
祖父母は優しかった。
なんといっても、義務教育終了までの衣食住を保障してくれたのだ。これは大きい。
ただ、年を追う毎に僕と彼女を混同する事が増えた。はじめは僕に彼女の面影を見る程度だった。
でも、気付いた時には取り返しのつかないほど会話が噛み合わなくなっていた。
晩年にはもはや僕は存在せず、名前を呼ばれることすら無かった。
声なんか無ければよかったのに。
届かない声なんて、何の意味もない。
発した声になにも返ってこないのは虚しいし、ひどく疲れる。
僕じゃなくて彼女の声だったら、最後の呼びかけにもちゃんと返事をしてくれましたか。
それでも。
君の声がする、と貴女が笑うから。
貴女が笑ってくれた、その一点だけで、声を失くさずにいて良かったと思うのです。
"ありがとう"
忙しすぎて、今日のお昼は常備されているチョコレート2粒だけだった。
泣ける。
最近、体調を崩し気味だったこともあり、あんまり食事を摂れていない。
ふらついて扉にぶつかった際、失礼しました、と誰もいない空間に向かって口走っていて、まずいなぁ、と思った。
振り返ると、同僚に凝視されていた。
あれは完全にヤバい奴を見る目だった。
帰り際、少しでも糖分補給してください、とココア缶を渡された。いい奴だ、ありがとう。