"君の声がする"
祖父母は優しかった。
なんといっても、義務教育終了までの衣食住を保障してくれたのだ。これは大きい。
ただ、年を追う毎に僕と彼女を混同する事が増えた。はじめは僕に彼女の面影を見る程度だった。
でも、気付いた時には取り返しのつかないほど会話が噛み合わなくなっていた。
晩年にはもはや僕は存在せず、名前を呼ばれることすら無かった。
声なんか無ければよかったのに。
届かない声なんて、何の意味もない。
発した声になにも返ってこないのは虚しいし、ひどく疲れる。
僕じゃなくて彼女の声だったら、最後の呼びかけにもちゃんと返事をしてくれましたか。
それでも。
君の声がする、と貴女が笑うから。
貴女が笑ってくれた、その一点だけで、声を失くさずにいて良かったと思うのです。
"ありがとう"
忙しすぎて、今日のお昼は常備されているチョコレート2粒だけだった。
泣ける。
最近、体調を崩し気味だったこともあり、あんまり食事を摂れていない。
ふらついて扉にぶつかった際、失礼しました、と誰もいない空間に向かって口走っていて、まずいなぁ、と思った。
振り返ると、同僚に凝視されていた。
あれは完全にヤバい奴を見る目だった。
帰り際、少しでも糖分補給してください、とココア缶を渡された。いい奴だ、ありがとう。
"そっと伝えたい"
そっと、伝えたかった言葉。
何度も口に出しかけて、その度掻き消した。
いま、伝えたいことがあった。
いま、伝えなきゃいけないことがあった。
いま、いま、いま…。
迷っている間に今が過ぎ去っていく。
伝えられなかった僕を、あなたは憎んでくれますか。
それとも、それくらい気にする事じゃないと笑い飛ばしてくれますか。
"未来の記憶"
未来の記憶なら沢山ある。
静かに目を閉じた貴女のそばで、
冷たい墓石の前で、
たった一人残された部屋の中で、
未だ来ない奇跡を待ち続けていた、記憶。
"ココロ"
カタカナで"ココロ"という文字を見ると、
機械やロボット、AIのイメージがする。
あとはとんでもなく壊れて狂った心や、
欠け残りのこころだとか。
漢字やひらがなとは何となく違った色に見える、
日本語のニュアンスの不思議。