"未来の記憶"
未来の記憶なら沢山ある。
静かに目を閉じた貴女のそばで、
冷たい墓石の前で、
たった一人残された部屋の中で、
未だ来ない奇跡を待ち続けていた、記憶。
"ココロ"
カタカナで"ココロ"という文字を見ると、
機械やロボット、AIのイメージがする。
あとはとんでもなく壊れて狂った心や、
欠け残りのこころだとか。
漢字やひらがなとは何となく違った色に見える、
日本語のニュアンスの不思議。
"星に願って"
咳と鼻水、喉の痛みは続いているが、なんとか今日を乗り切った。頑張った。柚子湯を飲んでさっさと寝るとしよう。
寝る時、たまに音楽を流す。
今日はお題に因んで、ピノキオの"星に願いを(When You Wish Upon A Star)"にした。
ディズニー映画といえば、何で皆いきなり歌い出すのか長年疑問だった。曲自体は別にいいんだけど、急に歌い出すのって怖くない?
以前貴女に尋ねたら、機嫌を損ねて三日間口をきいてもらえなかったけど。どうやらそれはそういうもので、疑問に思ってはいけないらしい。まぁ相手が楽しんでいる時に水を差してはいけないよなぁ。
"君の背中"
体調を崩した。
熱がまた上がってきたのか寒気がするし、鼻は詰まっているし、目の奥が痛くて勝手に涙が出てきて画面が歪む。
今日のお題は"君の背中"だそうだが、ろくに頭が回らない。
あぁそういえば。
昔、同じように体調を崩して咳き込んでいると、
普段はピンと真っ直ぐ伸びた君の背中が丸まって余計にしんどそうに見えると言われたっけ。
市販の風邪薬を飲んで布団をかぶる。
明日も仕事だ、休めない。
朝には熱と咳が治まっていたら良いのだが。
"遠く…"
遠く、遠くへ行きたい。
此処じゃない何処かへ。
わたし自身がいない場所へ。
帰りたいなぁ。
ずっと昔、頬を腫らした貴女はそう言って膝を抱えていた。すぐ後ろにある玄関扉にもたれて、困ったように微笑む。
貴女の家はそこにあるのに。
帰るべき場所に帰りたくないのに、どこに帰りたいと言うんだろう。
手招きされて、隣に座り込む。
ただぼんやり夕陽が沈む様子を二人で眺めていた。
やがて薄暗い空に星が瞬き出す頃。
貴女は空を見上げて静かに囁いた。
"カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなのさいわいのためならば僕のからだなんか百ペん灼いてもかまわない。"
"けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。"
僕が首を傾げると、貴女は鞄から本を一冊取り出す。その本は、何度も読み返したのかボロボロになっていた。
宮沢賢治、銀河鉄道の夜。名作だよ。
読みなよ、貸してあげる。
いらない、と断ると、可愛くないガキだと髪をクシャクシャにされた。口を尖らせて見上げると、貴女はもう涙を浮かべておらず、悪戯っぽくにんまりと笑っていた。
作中で、どこまでも一緒に行こうとカムパネルラに言ったのはジョバンニだった。
それなのに、かつて同じ台詞を口遊んだ貴女は今ここにいない。先に銀河鉄道に乗って遠くへ行ってしまったのは貴女の方だった。