ミヤ

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1/30/2025, 1:25:20 PM

"まだ知らない君"

わたしがどんな人間なのかまだ知らない君は
きっと後悔するだろうねと貴女は言った。

でもね。
後悔なんか、一度もしなかったよ。

後悔させて欲しかった。
知ったことを後悔するほど
貴女のことを沢山教えて欲しかった。
叶うのなら
もっと長く生きて欲しかったよ。

1/29/2025, 1:58:09 PM

"日陰"

出会って間もない頃、長袖ばかり着ていた貴女からは不思議な香りがした。煙のような、少しいがらっぽい、でも心を落ち着けてくれるような香り。
袖がずれた際、腕に丸い火傷痕が幾つもあるのが見えて、その正体を悟った。
自嘲気味に、煙草の匂いが染み付いていて臭いでしょう、と貴女は笑う。
でも、人の密集した時の匂いや香水の混ざった匂いなんかよりもずっと好きで。
いい香りだよ?と首を傾げて言うと、泣きそうな顔でぎゅっと抱き締められた。

貴女が煙草嫌いだったから今でも喫煙はしないけど、昔からその香りは好きだった。
煙草の害は盛大に謳われているし、副流煙も身体に良くないと知っている。でも好みだから仕方ない。
金木犀や沈丁花なんかと同じで、街中でふと香りが漂ってくるとなんとなく気分が上がる。
今は歩き煙草も少なくなったし、喫煙所も縮小されてきており、喫煙者は日陰者になりつつある。
煙草本体は別にいいんだけど、香りだけは残って欲しいなぁ。煙草の香りの芳香剤とか発売されないだろうか。

1/28/2025, 2:43:16 PM

"帽子かぶって"

以前、近くの空き地にタンポポの群生地があり、
時期になると一斉に綿帽子をかぶって揺れていた。
強い風が吹くと空高く舞い上がって、ふわりふわりと流れていく。
どこまでも流れていく綿帽子を目で追っていると、
青空は手を伸ばしたら届きそうなほど近く、遥か彼方まで広がっている気がした。

あの空き地は、今はもうない。
丁寧に整地され、黒いアスファルト舗装を施された後、白いフェンスで囲われた駐車場になった。
便利で綺麗になったと多くの人は喜んでいたけど、
ほんの少し、空が遠く、狭くなった気がした。

1/27/2025, 12:33:59 PM

"小さな勇気"

よく道に迷う人間だ。
案内図を確認しても、携帯でマップを検索しても、
進む方向を矢印で示してくれるアプリを表示していても、何故か迷う。

進んでいる時は、この道でいいという確信があるのだ。根拠はないが、絶大な確信が。
時間が経ち、いつまで経っても辿り着けない事に不安を感じてマップを確認すると、いつの間にかとんでもない場所に居たりする。
分岐にさしかかる度に地図を確認するような殊勝な人間だったら良かったのだが、生憎とそんなマメさは持ち合わせていない。
一時間以上も彷徨う前に、誰かに聞く勇気が持てたら良かったんだけどなぁ。

間違った道を行こうとする僕に苦笑して、いつも手を引っ張ってくれた貴女はもういないのだから。

1/26/2025, 2:39:00 PM

"わぁ!"

自分が写っている写真が嫌いだ。
原因は分からない。
引き取られた先で祖父母に延々とあの子に似ていると言われ続けたからかもしれないし、単純に自分が嫌いだからかもしれない。写っている姿が得体の知れないナニカに見えて、気持ち悪い。
作り笑いでも無表情でも、自分が写っていると思うと、"わぁ!"と叫び出したくなる。
学生時代の卒業アルバムは貰ったその日に捨ててしまった。
でも、自分のいない写真は好きだし、写真を撮るのも好きだ。だから手持ちのアルバムは、ほぼ貴女の写真集と化している。

本棚の整理をしていると、昔のアルバムを見つけた。懐かしくなってパラパラめくっていると、最後のページに撮った覚えのない写真が挟まっていた。
以前貴女を待っている時に、いきなり写真を撮られたことがあった。僕に見せないなら、という条件で、渋々残すことを了承したやつだと思う。
手を伸ばした状態で、悪戯っぽく笑ってカメラ目線の貴女と。驚いた顔をして画面に納まる僕が、一緒に写っていた。

どうしようか迷って、結局そのままにしてアルバムを閉じる。
ずるい。
貴女との写真を、僕が捨てられるはずがないじゃないか。

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