カツカツ。ピンヒールの音だけでこのビル全体を恐怖に陥れる。呼吸をゆっくり整えて、私は身を潜める大丈夫、大丈夫。心の中で何度も何度も言い聞かせた。カツカツ。足音がだんだん近くなって、カツ。止まった、私の視界は急に真っ暗になって、グシャ。何かが潰れた音がした。カツカツ、足音が遠くなる。状況を確認しようと目を開けた。いや、目を開けようとした。私は悟った。グシャという音は私の目が潰れた音だった。
旅とは、人それぞれの解釈があると思う。実際私は、旅とはいつか終わるもの。そういう捉え方をしていた。でも、君に出会ってその考えは大きく変わった、というよりも別の捉え方も知ることが出来た。
君はいつも人の為に何かをしていたね。私はそんな君に何となく惹かれていったよ。ふわっと笑うその顔がとってもいとおしく感じた。そこからだんだん距離が近くなって、いつの間にか結婚してた。
私は君に聞いたね、人生楽しい?と。そしたら君はこう答えたね。
僕はね、人生は長く永遠に続く旅だと思ってるんだ。死後でも、たくさんの花に囲まれながら長い長い旅をするんだ。旅はずっと続くものだよ。でも、絶対楽しいとは限らない。つらさを乗越えてこそ本当の楽しさがあるんだ。だから僕は、もっと君と楽しい思い出をつくって永遠に旅をしたいな。そういう君の顔は既に痩せこけて、空に浮いていきそうだった。
いつからだろ。私の世界に色が消えていった。モノクロの中生きるのは私にとって辛かった。この世界での「色」というのは感情を指しているらしい。色の判別ができない私は皆んなから差別を受ける。受けるごとに私の目から色が失われていく。誰か私を助けて、そう言えるはずもなく私は静かに虚無に飲まれていった。
ウェディングロードを歩く私。パパと一緒にゆっくりと進んでいく。君が見えてきた時、私はもう既に泣いていた。ゆっくりと階段を上がって、君の前までゆっくりと進んで来た。
僕と一緒に一生を歩いてくれませんか?
この言葉を言われた日から私は君とずっと幸せになると覚悟を決めてはや何年だろうか。やっと見れた憧れの景色と君の顔が、私の人生の中で1番キラキラと輝いていた。この人と人生を私は幸せに歩んで行った。ごめんね。そう言って君は間接的に私に口付けをした。骨壷に入った私は、もう君の体温すらも感じられないよ。でも、こんな私と結婚してくれてありがとう。私は静かに空へ昇って逝った。
紅葉がひらひらと木の枝から落ちる。
オレンジ色の空を、赤とんぼが無造作に飛び回っているのを見ると、なんだか季節の美しさを感じることができるような気がする。「うわ、とんぼだ!きも!こっち来んな!」
今の子は、自然が嫌いなんだろう。自然というのは美しい。きっとこの世で1番身近に美しさを感じられるものだと思う。オレンジ色のカーペットのような落ち葉に寝転がる。心地いい。美しいものに囲まれながら何も気にせず寝転がれるのは、我々の特権だろう。人間も我々のようになれば自然を美しいと思えるのかもしれない。
ごろごろと喉を鳴らしながら、もう一度落ち葉に寝転ぶ。次は何処に行こうか。我は起き上がりまた、自然を感じる旅に出るのだ。