梅雨
雨の音に誘われて、窓ガラスから外を見上げる。
ザアザアと降り続ける雨は止む兆しもなく空は分厚い雲で覆われていた。
「雨、止みそうもないね」
と、ハンギングに吊るしたエアプランツに話しかける。
勿論言葉が返ってくる訳では無いのだが、唯一の同居人だ。この雨の状況を共有できる存在は彼ないし彼女しか居ないのだ。
「雨は嫌いじゃないけど早く止んでほしいなあ」
ハンギングがキィと揺れたのでそうだね、と言葉が返ってきた気がした。だ、なんて。馬鹿らしいな。
「あー……買い物行こうかな」
雨降る中私は買い物に出かけるのだった。もちろん同居人のエアプランツにいってきますの挨拶を忘れずに、だ。
透明な水
ぽたりぽたりと滴り落ちたのは赤い色をした血だった。
頭を鉄パイプで殴られたのが原因らしい。
「いってぇな……」
鉄パイプで殴りかかってきた相手を睨めつければ、何故か、件の人物は涙を流していた。
「お、俺、そんなつもりじゃ、なくて」
じゃあどういうつもりなんだと思わないわけがない。
「ご、ごめんなさい」
痛むよね、どうしようと泣きながら呟き続ける。
「こんなのすぐ止まる」
「そ、そうなの?」
「それより俺はあんたに殴られるようなことした覚えはないんだが?」
「それは、その……」
「誰かに言われたんだろ?」
「どうして」
わかるの、と言いながら流しっぱなしだった涙を手で拭う、
どうしてもこうしても最近こういった気弱そうな輩が襲いかかってくるのが多いのだ。締め上げて理由を聞けば命令されてやっていると。いい加減鬱陶しいのでそそろ犯人を見つけ出したいと思っていたのだ。
「誰に言われてやったんだ?」
「それは……」
「俺が守ってやるよだから教えろ」
そう言えば暫く唇をもごつかせた後、主犯の名前を言った。
主犯は隣の高校を牛耳っている男でなぜか俺のことを目の敵にしている奴だった。
「じゃあ、乗り込むか」
がしりと涙が止まった男の肩を掴みそう言うと怯えた表情で「え」と言う。
「俺相手に鉄パイプで殴りかかれるんだったら十分戦力になる」
「ええ」
「それにお前に殴られた借りを返してもらってないからな」
「うっ」
そうして二人でたまり場に乗り込むのだった。
愛があれば何でもできる?
愛があればなんでも出来るって?誰が言ったよそんなこと。
こんなのは情がなけりゃ出来ないよ。
茶封筒に入った書類を手に持って道路を駆けながらそう考えた。
朝出かける時に「この書類今日使うんだ~」とパヤパヤの頭で言っていたくせになんでその書類が玄関に置きっぱなんだよ。忘れたのか? あえてか? どちらか分からないが15分前に出かけたアイツを追いかけるために飛び出した。(勿論しっかりと戸締りはした)全力疾走なんていつぶりにするのだろうか。坂を駆け下りて駆け上ってぜーはーいいながらアイツを追いかける。
なかなか後ろ姿が見えないので意外と歩くの速いんだなとか、一緒に歩いてる時はゆっくり歩いてくれていたんだなとか思ったりした。
そこでようやく後ろ姿が見え「俊介!」と名前を呼ぶ。
そうすると俊介はゆっくりと振り返り「なんでここに居るの?」と言いやがる。お前の忘れ物を持ってきたんだよ。
「これ……!」
「あれ?俺忘れちゃってた?!ごめん彰くん」
「いいよ間に合って良かった……あーしんど」
地面にしゃがみこみ盛大なため息を吐く。
「ほんとにゴメンねぇ、今日のご飯は外に食べに行こ?奢るから」
「頼むわ……」
じゃあまた連絡する、と言えばにこーっと笑うのでやはり情がなければこんなことできやしないと思うのだ。
優しくしないで
優しくしないで 期待してしまうから
優しくしないで 望んでしまうから
優しいあなたはいつだって
私のことを甘やかす
そんな時は
甘い甘い砂糖菓子になった気持ち
優しいあなたは今日もまた
私のことを甘やかす
だから私は
お皿の上に乗った
甘い甘い 砂糖菓子で
甘い甘い 蜂蜜酒なの
優しくしないで 期待してしまうから
優しくしないで 望んでしまうから
優しいあなたはいつだって
私のことを甘やかす
そんな時は
甘い甘い砂糖菓子になった気持ち
優しいあなたは明日もまた
飽きもせずに甘やかす
そんな時にずるい私は
刺激がちょっと欲しくなるの
胡椒の効いたグラタンを
ぺろりと平らげてしまう
優しくしないで もっと欲しくなるから
優しくしないで あなたが欲しくなるから
刹那
一瞬だった。
目の前を一閃されたのにしばらく気が付かなかった。
「わしの勝ちじゃな」
へた、とその場に座り込んだ僕をにんまりと笑いながら見下ろす老骨はとても老骨とは思えない太刀筋を見せつけてくれたのだ。
「約束通りもうついてくるなよ~」
わしは余生をダラダラと生きるんじゃから、と言った彼は後ろ手に手を振りながら立ち去って行った。
一度だけ勝負をして欲しい、それで負けたら諦めるからと言ったのは自分だった。
それだと言うのにこの胸の高鳴りはなんだ。
ドクドクと高鳴る胸は血を身体中に送り、脳が焼き切れそうだった。
チカチカと未だ眩い一閃を脳が処理しきれていないのだろう。
あんなものを見せつけられて諦め切れるか!
「待ってくれよ!」
叫びながら追いかければ彼は「げぇ」と言いながら走り始めたけど逃がさない。こればかりは若さが有利だ。
引っ捕まえて絶対に弟子にしてもらう。
約束破りとかそんなの関係ない、ほら言うだろう。
惚れた方が負けだってさ!