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5/6/2024, 10:02:50 AM

【明日世界が終わるなら】

母ちゃんの作った肉じゃがが食べたい
もう母ちゃん、死んじゃったけど
明日世界が終わるなら
最後の最後に
どうにかして食べたい
母ちゃんは居ないから
似たような味を作るしかないけど
そっくりな味ができたら
もう思い残すことはない

5/5/2024, 10:44:15 AM

【君と出逢って】

君と出逢って
君を好きになって
付き合いはじめて
好きな君には
心配をかけたくなくて
嘘をつくのが上手くなった

君と出逢って
嘘を重ねて
苦しくなって
だけど君には何も言えなくて
何も知らない君を傷付けたくなくて
別れを選んだ

君と出逢って
嘘塗れの僕が触れてはいけない人がいるのだと
初めて知った
君のためにとついた嘘は
いつしか膨れ上がり
僕は罪悪感に呑まれた

君と出逢って
自分の汚さに気付いた
君と出逢って
こんなに綺麗な人がいると知った

5/4/2024, 12:57:51 PM

【耳を澄ますと】

微かな音が聴こえてくる
目を閉じて耳を澄ますと
それが川のせせらぎだと分かる
私の心を浄化して癒してくれる
そんな音だった

5/3/2024, 2:05:24 PM

【二人だけの秘密】

公園の側にある空き地の土の中にそれを埋めると
咲は微笑みながら
「二人だけの秘密ね」と言った
咲が持ってきたおもちゃの赤い宝箱は
綺麗な装飾が施されていて、小さな鍵までついていた
上からスコップで土を被せると、宝箱は見えなくなった
それには僕らの宝物と未来の自分への手紙が入っていて
そしてもう一つ、お互いに向けた手紙も入れた
咲は「鍵は二つあるから、片方は渡しておくね」と言って
僕におもちゃの宝箱の鍵を渡した

十年後に掘り出そうと約束したけれど
二年後、咲は父親の仕事の都合で海外に引っ越してしまった
それからは公園の近くを通るたび
僕だけがあのタイムカプセルを思い出していた

それから三年後
咲が病気で亡くなったと母から聞かされた
僕は葬式に出ることもできず
咲が本当に居なくなったという実感すら湧かずにいた

タイムカプセルを埋めてから十年が経った
高校生になった僕は宝箱の鍵をポケットに入れて
一人であの宝箱を掘り起こしに行った
綺麗なおもちゃの宝箱は十年も土に埋められていたせいで
だいぶ汚れていた
だが、その土を落としているうちにはっとした
掘り出した宝箱には鍵がかかっていなかったのだ

開けてみると、そこには
僕の入れたものだけが入っていた
僕の宝物だったミニカーと、僕が未来の自分に宛てた手紙
そして幼いながら、咲への確かな恋心をしたためた手紙
それしか、入っていなかった
咲の宝物だった着せ替え人形も、咲が未来の自分に宛てた手紙も、そして僕への手紙も
絶対に入れたのに、無くなっていた

この宝箱の鍵を他に持っているのは、一人だけだ
咲が僕の知らないうちにここに帰ってきて、自分のものだけを取り出したのか
それとも家族や友達に頼んで、取り出してもらったのか
それすら分からなかった
でも、「二人だけの秘密」だと言ったのは咲だ
だからきっと、咲はこのタイムカプセルのことを誰にも言っていないはずだ

咲はどんな手紙を書いていたんだろう
幼い咲は将来の夢や当時の悩みを書き
未来の自分に残していたんだろうか
そして僕には
いったいどんな手紙を書いていたんだろう
咲は僕のことを
どう思っていたんだろうか

でも、僕はふと気が付いたのだ
自分が咲に宛てた手紙の文字の一部が滲んでいる
もしかすると咲自身が読んで、ここに涙を溢したのだろうか
そう思ったら、いつのまにか僕も泣いていた
咲が死んでから、初めて溢した涙だった

このタイムカプセルの存在は、二人だけの秘密だ
そして僕の咲への想いも
僕と咲
二人だけの秘密であると
今でも信じている

5/2/2024, 12:27:12 PM

【優しくしないで】

同僚の川原さんという男性がいる。
すごく仕事ができるのにそれを鼻にかけることもなく、気配り上手でみんなに好かれている人だ。
私が仕事でミスをした時も、さりげなくフォローをしてくれた。疲れている時には、そっと缶コーヒーを渡してくれた。仕事がうまくいった時は、一緒に喜んでくれた。

私がそんな川原さんを好きになるのには、あまり時間を要さなかった。川原さんへの気持ちに気付いてからは、毎日の仕事が楽しくなった。職場に行けば、川原さんに会えるから。

だけど、その幸せは長くは続かなかった。
川原さんと他の社員が話しているのをたまたま聞いてしまったから。
来週、奥さんと旅行に行くのだと、川原さんが話していたのだ。
まさか、川原さんが既婚者だったなんて。全然知らなかった。普段は結婚指輪をしていないから、独身なのだろうと思い込んでいた。

不倫なんて絶対にしたくないから、川原さんのことはこのまま諦めよう。私の想いは封印しよう。そう思ったのに。

私の気持ちなんて知らない川原さんは、暗い顔をしている私に優しく話しかけてくるんだ。
元気がないなら話聞くよ。それとも、嫌なこと忘れられるようにみんなでパーッと飲みに行く?なんて言うんだ。

お願い。これ以上、優しくしないで。
ますますあなたを好きになってしまうから。
このままだと、育ててはいけない私の恋心を殺せないから。
優しく、しないで。

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