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3/30/2024, 11:08:03 AM

【何気ないふり】

何気ないふりをして
軽くあなたの服の裾を引っ張る
あなたが喜ぶのを知っているから
「なんだよ」と笑うその顔が
嬉しさを物語ってる
何気ないふりをして
あなたの耳に顔を寄せて囁く
「好きだよ」
こうすればドキドキするって知っているから
何気ないふりをして
どれも計算だらけ
こんな私でも
あなたは変わらず愛してくれる?

3/29/2024, 11:21:31 AM

【ハッピーエンド】

出会ってすぐのころは喧嘩ばかりしていた、ドラマの中の男女。
男は最初「ブスだ」「お前の全てがイライラする」などと女に暴言を吐いていたが、それには複雑な理由があったし、徐々に頑張り屋の女を気に入るようになった。
女の方も、最初は意地悪だった男の優しさを徐々に知っていく。
そんな二人は晴れて恋人同士となり、ドラマは今日、ようやくハッピーエンドを迎えた。
あんな恋愛ができたら、さぞ楽しいだろう。

けれどあのドラマの主役である俳優の男は、現実世界では私の夫だ。
現実のあの男は、毎日毎日私に対する暴言ばかりを吐いている。
「まだ飯が出来てないのかよ」、「無能だな」、「誰が金を稼いでると思ってる?」など、こんなことを妻に言っていると世間に知れたらすぐにテレビから消えそうな発言ばかりだ。
夫はあのドラマとは逆に、出会ったばかりのころは優しかった。付き合っているあいだも優しかったが、結婚してから一変したのだ。

テレビの画面には、男女が見つめ合いながら笑顔を浮かべている姿が映っている。そこに『Happy End』という文字が現れ、ドラマは終わった。
そこでちょうど、隣の部屋から夫の怒声が聞こえてくる。

「おい!いつまで起きてんだよ!その電気代、誰が払ってると思ってるんだ!」

いつまでって……まだ九時なのに。自分の方が夜更かししていることがあるのに。夫は何かと理由をつけて私に文句を言いたいだけなのだ。

テレビと電気を消し、夫の待つ寝室に向かう。
真っ暗な廊下で、夫に分からないくらいの小さなため息をついた。
布団の中でも、さっき見た『Happy End』の文字がまだ脳裏にこびり付いている。
私と夫のハッピーエンドは、きっと永遠に来ないだろう。

3/28/2024, 1:16:47 PM

【見つめられると】

十歳の誕生日
僕は初めて万引きをした
四人のいじめっ子からいじめられている僕は
同級生に「俺らに渡す金が無いなら万引きしてこい」と言われて
スーパーの駄菓子コーナーから小さなガムを五つ、袖に隠した

そこは僕が幼稚園に通っているころから時々行っている
鼻の下と顎にヒゲが生えたおじさんと
その奥さんであるおばさんがやっている個人経営のスーパーだ
二人とも優しくて、これを食べて大きくなりなと言って
背が低い僕にこっそり野菜や果物をくれることがあった

僕は前に、おじさんがおばさんと「金が無いから、監視カメラはダミーのしか設置してないんだよなあ」と話しているのを
たまたま聞いたことがあった
だから僕は「ここのスーパーはどうかな」といじめっ子たちに言った
どうしても捕まりたくなかったから
いじめっ子たちも僕が万引きをするのは初めてだから、盗るのは小さな駄菓子でいいと言った

取ってきた五つのガムは
僕の手のひらから一人一つずつ取っていって
最後に一つ僕の分だけが余った
それを握りしめて家に帰って
おかえり、と言う母さんに返事もせず顔も見ないで
自分の部屋に入った

握っていた手を開いて
ガムを見てみると
前に母さんに買ってもらった時と同じデザインのパッケージなのに
全然違うものに見えた
描いてある犬のキャラクターも可愛い見た目なのに
今日はすごく怖く思えた

不意に聞こえたコンコン、というノックの音に飛び上がる
もう一度手の中のガムを握りしめて、ごくんと唾を飲む
続いて聞こえた声はひどく優しいものだった

「入るわよ」

母さんは微笑んで、だけど心配そうに僕を見つめた

「何かあった?」
「何も……」

いじめられていることも万引きのことも知られたくなくて
何も無かったと答えようと思ったのに
母さんに見つめられると
いつもこんなに僕のことを考えて優しくしてくれる母さんにここで嘘をついたら
僕はもうすでにクズだけど
今度こそ本当に本当に最低なクズになると思って
でもやっぱりなんて言っていいか分からなくて
何も知らないはずの母さんの優しい目に見つめられると
今日はその優しささえ怖くて怖くて
僕は泣きながら「ごめんなさい」と言って
いつの間にか強く握りしめていた手のひらを開いた
床に落ちた小さなガムは
握っていたせいで醜く歪んでいた

3/27/2024, 4:02:51 PM

【My Heart】

もっと心が強ければいいのにと
何度も何度も思った
気は強いのに傷つきやすい
厄介な自分だから

変に繊細だけれど時々大胆になる
そんな自分の心が
大好きで大嫌いだ

3/26/2024, 11:20:06 AM

【ないものねだり】

私の友達のエマは、ぱっちりした二重瞼の目が特徴の可愛い女の子だ。
一重瞼で切れ長の目をした私は、幼い頃からずっと、そんなエマの目が羨ましかった。

けれど、最近エマと二人で買い物に行った時、びっくりしたことがあった。
化粧品コーナーを見ていると、鏡が備え付けてあったので、私は用もないのについ覗き込んだ。
私の目は、隣に居るエマの目の三分の一ほどの大きさに見える。すでに分かっていることだけれど、こうして見てしまうとやっぱり落ち込む。
でも、私と並んで鏡を見ていたエマが言ったのだ。

「いいなあ。ハルカは鼻が高くて」
「えっ……?」
「私、鼻が低いのがコンプレックスなんだ」

言われて鏡をよく見てみると、確かにエマの鼻は可愛らしくちょこんとしているが、高い方ではないかも知れない。
自分の鼻が高いことは、時々周りから言われて自覚していたけど、あまり深く考えたり、誇らしく思ったりはしなかった。むしろ、エマみたいな目だったら……と自信のない目のことばかり考えていた気がする。

「私は、エマの目が羨ましいよ」
「目!?」
「小さい頃からずっと、エマみたいな目に憧れてたんだ」
「えー!私、小学生の頃は男子にギョロ目とか出目金とか言われて、目のことでからかわれてたよ!」
「そうなの?」

話を聞いてみると、エマは成長するにつれて目を褒められることが増えたが、子供の頃の経験もあって自分の目に自信を持っているわけではないようだった。そして私とは逆に、コンプレックスの鼻のことを考えてばかりいたらしい。

「そっか……知らなかったなあ」
「ハルカみたいな顔だったら良かったって、何回も思ったんだ」
「嘘でしょ!?」

だって、エマは可愛いから私の三倍くらいは男の子にモテるのに。けれど、エマは「誰かが褒めてくれても、自分は気に入らないの」といって力無く笑った。

――それから五年。
エマは、整形で鼻を高くした。本人には言えないが、まるで魔女の鼻みたいだ。
今のエマは男の子には全然モテなくなったけれど、幸せそうに笑っている。

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