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3/20/2024, 11:41:16 AM

【夢が醒める前に】

まるで絵本に出てくる王子様が
そのまま目の前に現れたみたいに
綺麗な瞳と髪を持った端正な顔立ちの男の子が
私を見つめている
そして私に「愛しています」と
甘い声で囁くのだ

この男の子に会うのはこれで三度目
いつも気付いた時にはすぐ目の前にいる
やがて私も
これが夢だと思い出してしまう
そしてこの男の子も
夢の中の住人でしかないということも

「あなただけをずっと愛しています」
男の子はまたそう言って
私を愛おしそうに見つめた
一度目は見つめ合うだけ
二度目は抱きしめてくれた
三度目の今日は
美しい顔がそっと近付いてくる

ああ
この夢が醒める前に
幻のような甘美な口付けを

3/19/2024, 9:43:49 PM

【胸が高鳴る】

朝、いつも同じ電車で見かける男の人がいるの
高校生の私より少しだけ年上に見えて
毎回私服だから大学生くらいかな

見かけても最初のころは何も思わなかった
ああ、いつもの人だなって思うくらい
だけどその人
いつも誰かに席を譲ってるんだ
それでね
ある時席を譲ってもらったおばあさんが
「ありがとう」って言ったら
その男の人が恥ずかしそうに笑って首を横に振ったの
なんだかその笑顔を見た瞬間
胸が高鳴った、っていうか……

それからは
その人を見かけると毎回ドキドキするようになっちゃって
あの人のこと何にも知らないのに
自分って単純で馬鹿だな、って
学校でもぼーっと考えたりしちゃってさ

また明日も会えるかな
今、この世で
私の胸を高鳴らせる唯一の人に

3/18/2024, 10:50:02 AM

【不条理】

普通はさ、待ち合わせに遅刻したら「ごめんなさい」だよね?
自分が落とした小銭を拾ってもらったら「ありがとう」だし。
どっちも言えないってどうなの?しかもいい大人が。

ごめんなさいもありがとうもまともに言えないような人は、いくら顔がカッコ良かろうが、物腰が柔らかかろうが、仕事で稼いでいようが、こっちから願い下げ。他の部分が優れていればいいってもんじゃない。
ま、そいつは顔もカッコ良くなかったし、性格悪いのが滲み出てたし、仕事で稼いでるわけでもなかったけど。

人の振り見て我が振り直せ。自分は最低限、ごめんなさいとありがとうはちゃんと言える人でいよう。

3/17/2024, 12:34:48 PM

【泣かないよ】

ぼく、泣かないよ
おひっこしして友だちとはなれることになっても
パパとたまにしか会えなくなっても
泣かないよ

ぼくは強い子だから
ママが何日か帰ってこなくても
ロボットのおもちゃやミニカーがあるから
泣かないよ
おなかがすいても
のどがかわいても
ねてしまえば大丈夫だから
泣かないよ

ぼくは泣かないよ
泣いてもなんにも変わらないって分かってるもん
泣いてもおひっこししなきゃいけないし
パパといっしょにはいられないし
ママも帰ってこないもん
だから泣かないよ

でもね
新しいがっこうで
つらいことがあったとき
だれにも話せなくて
ロボットに話してみても
やっぱりなんにも返してくれなかった
だけどあしたも学校にいかなきゃならない
泣いてもなんにも変わらないって分かってるのに
どうしてかな
勝手に涙が出てきて
泣かないって思ってたのに泣いちゃった

だけど
二日ぶりに帰ってきたママに
「何もなかった?」って聞かれたから
「大丈夫」って答えちゃった
「ぼくは強い子だから泣かないよ」って言っちゃった
ママは「そうよね、アンタは強い子だもんねえ」って言って
ぼくの頭をなでてからお金をテーブルに置いて
またどこかにいっちゃった

ぼく、そのあといっぱい泣いたんだ
新しいがっこうの新しいクラスで
みんながいじわるしてくることとか
パパやママともっと一緒にいたいと思ってることとか
一人で過ごすのがさびしいこととか
なんでか分からないけどいつも不安なこととか
いっぱいいっぱい考えて
いっぱいいっぱい泣いたんだ
だけどね
そのあとぼくは泣かなくなったんだ
かなしくてもうまく泣けなくなっちゃった
もうなにも感じなくなっちゃったのかな
ママに会えても
嬉しいとも思えなくなっちゃったし
クラスのみんなにいじわるされても
どうでもよくなっちゃった
なんでだろうね

3/16/2024, 10:30:22 PM

【怖がり】

昔、夜のトイレって怖くなかった?

昼間は普通に行けるのに、夜になるとなぜか怖く思えるの。
それなのに夜中に目が覚めてトイレに行きたくなるから困る。
だからお母さんについてきてって言うんだけど、お母さんも眠いから一人で行ってきてって。
しばらくついてきて、嫌だ、っていうのが続くうち、トイレも我慢できなくなってくるから、仕方なく一人で行くことになるんだよね。

でも、夜のトイレは怖い。トイレの電気をつけても、どこかに何かが潜んでいるような気がしてくる。
本当に夜だけ、そんなことを考えちゃう。
用を足してるあいだにも、この無防備な時に何か得体の知れないものが襲ってくるんじゃないかって気が気じゃなかった。
そう、僕ってだいぶ怖がりな子供だったんだよ。

え、今の僕?
今はもう二十代半ばの立派な大人なんだけどね。
ホラー映画やスプラッタ映画を観るのが趣味な大人になっちゃった。
お化け屋敷に入っても、そこにいるお化けを冷めた目で見てるような大人に。

なんでって……だって、十代後半くらいから、トイレに居る「得体の知れないもの」に何度も出くわすようになったから。
前は存在を感じるだけだったのに、成長と共に実際に「見える」ようになっちゃって。
だから、作り物を見ても怖くなんかないのさ。
本物こそ、ふとしたきっかけで豹変することを知っているし、姿形も言動も本当に恐ろしいからね。
怖がりな少年は、時を経てこんな風に育ちましたよ。

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