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2/6/2024, 10:40:19 AM

【時計の針】

見てごらんなさい。
時計の針が一秒一秒、動いているでしょう。
これは時計の電池が切れたりしない限り、止まらないのです。
つまり私たちの生きている時間も、この命ある限り一秒一秒進んでいくんですよ。

はい、田中くん。
……ええ、そうですね。
もし心臓が止まってしまえば、私たちの生きる時間も止まってしまいます。
さっき、私たちの生きている時間は一秒一秒進んでいくと言いましたね。
けれど、それは同時に、私たちが生きられる残りの時間が、一秒一秒減っていっているとも言い換えられるのです。

時間は有限ですよ。
そして、時計は突然壊れてしまうこともある。
急に何かが強くぶつかったり、うっかり水に浸けてしまったり、さっきまで元気に動いていたのに、いきなり電池が切れてしまったり。

今、私たちが生きているのは、奇跡的なことです。
皆さんとこうして会ってお話できているのも、決して当たり前のことではありません。
明日、一年後、十年後……今と同じように、全員が顔を合わせられるとも限らないのです。
一秒、一秒を大切に生きましょう。
そして、周りの人を大切にしましょう。
時計の針は、何もしなくても進んでいくけれど。
少しでも有意義に過ごせるよう、人生を楽しみましょう。

2/5/2024, 11:59:01 AM

【溢れる気持ち】

溢れる気持ちは
まるで噴水みたいに
勢いよく出て行って
あなたにぶつかりました
あまりに突然のことに
その気持ちの持ち主である私も
ぶつけられたあなたも
驚いて顔を見合わせます
言うつもりのなかった、隠しておくつもりだった
「好き」という言葉
そしてそれに乗っかった気持ち
溢れて溢れて、とうとう口から漏れ出てしまいました

2/3/2024, 4:17:14 PM

【1000年先も】

私は今年で525歳になる獣人族の男だ。
本来は獣の姿をしているのだが、普段は人間の姿となって、人間社会で生活している。
人間というのは面白いもので、貧弱な体であるのに知恵を絞って道具を作り、この世を牛耳っている。
そんな人間が進化するさまを、私は525年見てきたわけだ。
その成長のスピードは目まぐるしい。
ある者は不治の病に対抗する薬を開発し、ある者は多くの人々を救い、ある者は世界平和のために立ち上がり……彼らは短くて濃い人生を生き、寿命を全うしている。
その閃きや勇気、愛の強さには、毎度驚かされるのだ。

獣人族の寿命は長い。平均寿命は2000歳だ。
私は1000年先も、人間に紛れて人間たちの生き様を見つめていることだろう。
これからどんな風に人間が進化し、私を驚かせてくれるのか、1000年先の未来を楽しみにしている。

2/2/2024, 2:13:13 PM

【勿忘草(わすれなぐさ)】

あの人が初めてくれた花は
勿忘草でした
花なんて珍しいわね、と
少しからかいながらも笑ってみると
たまにはいいだろ、と
照れくさそうに返してきて
その姿が愛おしくてたまりませんでした

それから一ヶ月後
あの人はこの世を去りました
病に侵され、余命宣告をされていたようです
私には何も伝えず逝ってしまいました
一人で痛みに耐え、一人で寂しく死んで
私は何も知らぬまま
ご家族の方に連絡を貰ったのは、一週間後のことでした
私はあの人が最期を迎える時
隣にいる資格さえもなかったのだと思い知らされました

それから十年後
勿忘草を目にすることがありました
小さな花屋にふらっと入ったのです
あの人に最後に貰った勿忘草の花言葉が気になって
勿忘草と、花言葉がたくさん載っている本を買って帰りました

勿忘草の花言葉は
私を忘れないで
真実の愛

私はあの人を忘れません
辛くて忘れようとしたこともあったけれど
結局忘れた日などありませんでした
勿忘草の花言葉を
知るのが怖かったのです
あなたが私のことをどう思って死んでいったのか
目を逸らしたくて仕方なかった
けれど時が経ち
ようやく向き合えたのです

私はようやく安堵しました
あの人はきっと
私を最期まで愛してくれていた
そして自分の存在が
私の記憶の中に
ずっと残っていてほしいと思っていた
それでも自分との最期の別れを私に経験させることは
私が辛いと分かっていた
だから一人を選んだ
そう思うのです

馬鹿な人
きっと一人で逝かせる方が辛かったのに
でも、そんなあの人の優しさは
私の中にずっと残っています
あの人との幸せな思い出とともに

2/1/2024, 11:14:08 AM

【ブランコ】

幼い頃
ぶらぶらと揺れる、あの遊具が好きだった
自分に羽が生えたようで
体が軽くなるようで

今の私は心が重く
胸の奥の方でぶらぶらと気持ちが揺れている
悩み、迷い、苦しみ
それらを抱えて足踏みしている
辛いことがあると
ブランコに乗りながら俯いた、遠いあの日のように
上を向く気になれず
不安定なままに揺られ続ける

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