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【勿忘草(わすれなぐさ)】

あの人が初めてくれた花は
勿忘草でした
花なんて珍しいわね、と
少しからかいながらも笑ってみると
たまにはいいだろ、と
照れくさそうに返してきて
その姿が愛おしくてたまりませんでした

それから一ヶ月後
あの人はこの世を去りました
病に侵され、余命宣告をされていたようです
私には何も伝えず逝ってしまいました
一人で痛みに耐え、一人で寂しく死んで
私は何も知らぬまま
ご家族の方に連絡を貰ったのは、一週間後のことでした
私はあの人が最期を迎える時
隣にいる資格さえもなかったのだと思い知らされました

それから十年後
勿忘草を目にすることがありました
小さな花屋にふらっと入ったのです
あの人に最後に貰った勿忘草の花言葉が気になって
勿忘草と、花言葉がたくさん載っている本を買って帰りました

勿忘草の花言葉は
私を忘れないで
真実の愛

私はあの人を忘れません
辛くて忘れようとしたこともあったけれど
結局忘れた日などありませんでした
勿忘草の花言葉を
知るのが怖かったのです
あなたが私のことをどう思って死んでいったのか
目を逸らしたくて仕方なかった
けれど時が経ち
ようやく向き合えたのです

私はようやく安堵しました
あの人はきっと
私を最期まで愛してくれていた
そして自分の存在が
私の記憶の中に
ずっと残っていてほしいと思っていた
それでも自分との最期の別れを私に経験させることは
私が辛いと分かっていた
だから一人を選んだ
そう思うのです

馬鹿な人
きっと一人で逝かせる方が辛かったのに
でも、そんなあの人の優しさは
私の中にずっと残っています
あの人との幸せな思い出とともに

2/2/2024, 2:13:13 PM