私の中で激しく蠢く猛火は何度水をかけようと時が経てば再び燃え盛り体を蝕み始める為、人間や動物が息を吸って吐くように私は定期的に炎を生み出し炎を放出しなければならない。……ああ、体が熱くなってきた。
両手にゆっくりと力を込めて締め付ければ体の内側から熱が抜けていくような感覚に襲われ、解放感から思わず笑みが漏れた。
「最高だ……貴様もそう思うだろう?」
醜く爛れた『ソレ』に声をかけるが返事はない。
「嬉しくて声も出ないか」
それもそうか、私の一部と言っても過言ではない猛火を一身に浴びているのだから。これまでの苦労や不幸もこの為だったのかと幸福に浸っているのかもしれない。……もう少し時間をかけてやれば良かったな。
「ぁ……ッ……」
ふと小さな呻き声が耳に届いた。
「どうした? 私に何か言いたいことでも?」
僅かに顔を寄せてそう問いかける。ソレは再び小さな呻き声を漏らした後、窪んだ穴から一滴の雫を垂らしながら言った。
「……ゃく……ご、……ろし……て……ッ」
ソレが囁いた言葉を聞き私は微笑んだ。
「それが貴様の望みか」
続けて聞こえた呻き声を肯定と捉え、私は原型を失いつつあるソレに手を添え直す。ぬるりとした感触に眉を顰めそうになるが、これも望みを叶えてやる為だと我慢しながら勢いよく両手に力を込める。
同時にこれ以上ないほどの解放感が与えられた。この瞬間、私には何も考えない"無"の時間が訪れる。怒りも憎悪も何も感じない一時の休息の時間。
「……最高だ」
小さく呟いて私は一時の安寧に身を任せた。
自分に絶対的な自信を持つその姿に憧れていた。
(自己中心的で自信家なその性格に吐き気がした)
誰にも媚びず逆らい続けるその姿に憧れていた。
(他者を見下し踏みつけるその姿が恐ろしかった)
私を救ってくれたあなたのことが大好きだった。
(私に飽きて捨てたあなたのことが大嫌いだった)
今更言ったところで--何も変わらないけれど。
「ね、一緒にお星様見に行こー!」
と隣にいた桃色の小鳥が囀った。
突拍子のことで思わず眉を顰めたが、突拍子のないことはいつものことかと小さく溜息をつく。
「……寮に戻る時間だ」
時刻は既に九時を回っている。規則を破りたくなければ寮に戻り、眠る準備をした方が良いだろう。
「そっかー。じゃあ、一人で見てくるね」
と囀って隣にいた小鳥は飛び立っていく。どことなく浮き足立ったその後ろ姿を暫し眺めた後、私は再び溜息をつき「待て」と静止の声をかけた。
飛び立った小鳥は少し離れた所で立ち止まり、不思議そうに小首を傾げながらこちらを見ている。
「気が変わった」
読んでいた本に栞を挟み立ち上がる。
「一緒に来てくれるの?」
いつの間にか傍に戻った小鳥が嬉しそうに囀った。
「気が変わったと言っただろう」
「やった! お星様たくさん見ようね。あとあと星座も見つけて、それで」
「飽きたら帰る」
「なら飽きられないように綺麗なお星様を見つけないとな〜」
ふふふ、と隣でご機嫌に小鳥が囀る。
普段の囀りとはまた少し違うその声色を不思議に思いながら、空に浮かぶ"星"と呼ばれるそれを私はぼんやりと見つめ始めた。
「--Shall we dance?」
星空の下
悪魔が手を差し出す
罪に濡れた赤黒い手を
気まぐれだと分かっている
深い理由や訳は何もないのだと
それでもその手を取ってしまうのは
希望も赦しも与えられないこの現実を
忘れさせてくれるような
そんな気がしたから
ただ、それだけだった