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 私の中で激しく蠢く猛火は何度水をかけようと時が経てば再び燃え盛り体を蝕み始める為、人間や動物が息を吸って吐くように私は定期的に炎を生み出し炎を放出しなければならない。……ああ、体が熱くなってきた。
 両手にゆっくりと力を込めて締め付ければ体の内側から熱が抜けていくような感覚に襲われ、解放感から思わず笑みが漏れた。

「最高だ……貴様もそう思うだろう?」

 醜く爛れた『ソレ』に声をかけるが返事はない。

「嬉しくて声も出ないか」

 それもそうか、私の一部と言っても過言ではない猛火を一身に浴びているのだから。これまでの苦労や不幸もこの為だったのかと幸福に浸っているのかもしれない。……もう少し時間をかけてやれば良かったな。

「ぁ……ッ……」

 ふと小さな呻き声が耳に届いた。

「どうした? 私に何か言いたいことでも?」

 僅かに顔を寄せてそう問いかける。ソレは再び小さな呻き声を漏らした後、窪んだ穴から一滴の雫を垂らしながら言った。

「……ゃく……ご、……ろし……て……ッ」

 ソレが囁いた言葉を聞き私は微笑んだ。

「それが貴様の望みか」

 続けて聞こえた呻き声を肯定と捉え、私は原型を失いつつあるソレに手を添え直す。ぬるりとした感触に眉を顰めそうになるが、これも望みを叶えてやる為だと我慢しながら勢いよく両手に力を込める。
 同時にこれ以上ないほどの解放感が与えられた。この瞬間、私には何も考えない"無"の時間が訪れる。怒りも憎悪も何も感じない一時の休息の時間。

「……最高だ」

 小さく呟いて私は一時の安寧に身を任せた。

10/9/2024, 10:21:46 AM