【赤い糸】
私の小指には
彼女と繋がった赤い糸が
結ばれていたのだろう
いつしかお互い想うようになり
楽しく時が過ぎていった
けれど私は何故かその赤い糸を
自ら切ってしまった
彼女との間には溝ができ
今までみたいに向き合うことが出来なくなった
それでも彼女は私に向き合おうとしていた
だが私は眼をそらし続けた
その後彼女は私の前から姿を消した
ある時偶然耳にした
『彼女、亡くなったんだって』
赤い糸を切られ風に流される凧のように彷徨って
誰かと結ばれたらしい
幸せだっただろうか
自ら赤い糸を切った私に
そんなことを想う資格などない
でも切っていなければ
今も彼女は私の前で
笑っていただろうか
今さら自分のしたことを後悔しても
遅いのだけれど
【刹那】
今生きているこの時は
止まることなく
終焉に向けて進む
1日
1時間
1分
1秒
どんどん時を細かく区切っていって
どんなに短くなっても
刹那の連続でしかない
消えてなくなることもない
だからほら
今の今 その時は
訪れた瞬間に過去になっている
時が止まることがないということは
『今』は存在しているのだろうか
今が存在しないとするなら
過去も未来も存在しないのではないか
今日の心模様
常に移りゆく
こころに翻弄され
嬉しくなったり
楽しくなったり
寂しくなったり
悲しくなったり
こころは
ころころ
ころころ
同じ場所に
留まってはいない
今日のこころは
どんなだろう
だがやっぱり
ころころ
ころころ
『快晴』
どんよりと曇り空の心は
その上の快晴を知らず
いつもそのまま
だけど快晴はいつだってそこにある
視点を変えるだけなんだ
その力がないんだ
同じ気持ちと同じ視点で
だからいつも
曇り空
快晴ってどんなだったかな
そこにあるはずなんだけどな
曇り空の心の上に
あるはずなんだけどな
【あの時のハンバーグ】
いつの日からだろう、胸が高鳴る事が無くなったのは。
子供の頃はちょっとした事でワクワクしたものだった。
あれは小学生の頃、決して裕福な家庭じゃなかった私の家は、小さな狭い平屋の借家に両親と弟と私、4人で暮らしていて、苦しかったんだろうけど両親はそれを表に出さず、たまに…本当にたまに外食に連れていってくれた。あの頃は未だ今みたいに安くて美味しいチェーン店なんてあまり無くて、小さな洒落た洋食屋さんって感じのレストランしかなかった。
連れていかれたのは薄暗い店内に、洋食の美味しそうな匂いが立ち込める静かなレストラン。お洒落なテーブルと椅子。テーブルには布がかかっていて、それがテーブルクロスだということは大きくなるにつれて知った。私は初めて経験するなんとも言えない大人びた雰囲気と洋食の匂いに、緊張しつつもワクワクしていた。
ハンバーグを注文した。運ばれてきたのは鉄板に乗ってジュウジュウ音を立て、美味しそうな匂いの湯気を放つハンバーグ。フォークとナイフが置かれていて、箸しか使った事がなかった私は戸惑ったが、父が使い方を教えてくれた。今思えば特別高級なお店でもなかったのだが、両親も子育ての大変な最中だったし、いつも質素なご飯を作ってくれていたのだが、気晴らしもしたかったのだと思う。
その後も本当にたまにではあったが、同じお店で家族みんなで外食をした。その日のなんと胸が高鳴った事だったか。大人になった今は外食で胸が高鳴る事はもう無くなってしまったが、でもだからこそあの時の気持ちを忘れず、小さな幸せにもワクワクする気持ちでいたいと思うのだ。