ねこじた

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【あの時のハンバーグ】

 いつの日からだろう、胸が高鳴る事が無くなったのは。
 子供の頃はちょっとした事でワクワクしたものだった。
 あれは小学生の頃、決して裕福な家庭じゃなかった私の家は、小さな狭い平屋の借家に両親と弟と私、4人で暮らしていて、苦しかったんだろうけど両親はそれを表に出さず、たまに…本当にたまに外食に連れていってくれた。あの頃は未だ今みたいに安くて美味しいチェーン店なんてあまり無くて、小さな洒落た洋食屋さんって感じのレストランしかなかった。
 連れていかれたのは薄暗い店内に、洋食の美味しそうな匂いが立ち込める静かなレストラン。お洒落なテーブルと椅子。テーブルには布がかかっていて、それがテーブルクロスだということは大きくなるにつれて知った。私は初めて経験するなんとも言えない大人びた雰囲気と洋食の匂いに、緊張しつつもワクワクしていた。
 ハンバーグを注文した。運ばれてきたのは鉄板に乗ってジュウジュウ音を立て、美味しそうな匂いの湯気を放つハンバーグ。フォークとナイフが置かれていて、箸しか使った事がなかった私は戸惑ったが、父が使い方を教えてくれた。今思えば特別高級なお店でもなかったのだが、両親も子育ての大変な最中だったし、いつも質素なご飯を作ってくれていたのだが、気晴らしもしたかったのだと思う。
 その後も本当にたまにではあったが、同じお店で家族みんなで外食をした。その日のなんと胸が高鳴った事だったか。大人になった今は外食で胸が高鳴る事はもう無くなってしまったが、でもだからこそあの時の気持ちを忘れず、小さな幸せにもワクワクする気持ちでいたいと思うのだ。

3/20/2024, 12:29:21 AM