柘榴の実が結ぶころ
あの日の選択を悔いてはいない。
それによって吾子は素晴らしい息子に育った。
一度として母親の振る舞いが許されなくても
見守る事が出来たのはヨウの計らいだ。
「名を呼べぬあれがユエと名付けられたのは何の因果か」
兄弟として陽と月の名を持つ二人がその実、親子である事を知っている者は両手の指程も居ない。
太陽のようにこの国を照らす帝とその影のような皇弟
その関係を明らかにする機会は永遠に失われてしまった。
皇后の男児が存在する今、そんなことを行えばこの国は内乱で滅ぶ。
一つ光明があるとすれば、吾子の隣に一番の理解者がいることだ。
『後悔しないように譲歩してもらうつもりです』
薬屋の娘はそう言いきった。
自分には出来なかった理想に向ける強い眼差し。
きっと同じ轍は踏まないだろう。
その事が嬉しくもあり寂しくもあるが、明るい未来を目指して前を向く若い二人に幸有れと切に願う。
お題『太陽のような』
ソラのはじまり
天文学者は宇宙はビックバンから始まったと言う
でもそれは1が100や10000になった現象
0から1になった証拠は未だにわかっていない
始まりの現象はきっと人間には発見出来ない奇跡なんだろう
お題『0から』
同情
「俺は精神的にも肉体的にもアイツを傷つけちまった。
だから、どうすればいいのか分からねえんだ…」
サンドラとロード、凱に説得されて少しだけカイの部屋に行くことに前向きになった三四郎がポツリと呟いた。
「俺が自分に向けた苛立ちとか不甲斐なさを、カイは自分への同情だと誤解してて。…アイツ、同情されるの死ぬ程嫌いだろ?エムパスで感じ取るからきっと疑ってない。
俺も言葉で伝えるのが下手だから何言っても信じてもらえない気がする」
三四郎らしくない弱気な言葉にサンドラとロードはお互い目を見張って確認しあう。
ずっと、彼ら二人の雰囲気を見守ってきた夫婦はその言葉を聞いて微笑んだ。
「三四郎、何を言ってもムダだと思っちゃダメ!
確かにエムパスは素晴らしい能力だけれど、そこに甘えてないかしら?
カイにはカイの真実があるように、三四郎には三四郎の真実があるでしょ。それが同じものとは限らない。
どんなに下手でも拙くても、自分の言葉と気持ちでカイに言わないと本当の意味で彼に伝わらないわよ」
「サンドラの言うとおりだ。
エムパスはカイから見たフィルターなんだ。とても便利だけどいつも正しいかと言われるとそれは違う。
三四郎、カイは君を拒否しているんじゃないんだよ」
「…そう、なのか?」
不安そうに、しかし少しの希望を見出して三四郎の声のトーンが明るくなる。
そんな三四郎の背を押すように3人は力強くうなづいた。
「どんな事でもいいから言葉にしてカイに話す。
それが仲直りの一歩です。真剣に話せばちゃんとカイに伝わります。
エムパスであろうと無かろうと気持ちを届ける意思を見せなければ関係は変わりません。その努力はきっとカイも感じ取るはずです」
ようやくカイの部屋へ行く気になった三四郎を励まし、送り出した3人はホッとひと息ついた。
「結局のところ、三四郎の気持ちの問題だね。
カイは三四郎を完全には突き放せないからね」
「私たちの同情と三四郎の同情はカイにとっては意味が違う。カイは三四郎と対等で有りたいから同情されるのが嫌なのね」
「どちらも相手に対して素直になれないところが問題を大きくしてしまうのでしょう。
アドバイス通りにすればすぐに結果はでますね」
すったもんだを繰り返すはた迷惑なバディに思いを馳せながら、3人はゆったりとしたブレイクタイムを過ごすのだった。