自分の行動に対して成功を求められるようになったのは、母が精神を病み祖父母に育てられるようになってからだった。
昔アイドルを目指していた親が、子供が生まれたことでその子に芸能界を目指させる。大人が子供に自分が叶えられなかった夢を背負わせる、よくある話だ。
祖父母は自尊心が高く自分たちこそは最高の魔法使いだとよく僕に自慢していた。歳をとるにつれて成熟していく魔法は確かに僕よりは断然洗練されていた。ただ、まだ歳が2桁にもなっていない僕よりは上手いだけ。世間的に見れば平均的かそれよりも下なぐらいの人達だった。高い自尊心に見合わぬ実力に劣等感があったのだろう。だから彼らは最高の魔法使いになるという夢を僕に課せてきた。
両親の目がないことをいいことに朝から晩まで勉強部屋に閉じ込めて机に向かっていない所を見られたらムチで叩かれた。食事とトイレは一日に2回でそれ以外は椅子に座りっぱなしかお下がりの杖で的に魔法を当てる練習をさせられていた。そんな生活を続けていたらガタがくる。分かりきっていることなのに、僕が体調を悪くする度に彼らは罵詈雑言を僕にあびせかけた。
僕はただ耐えるしかなかった。
彼女はまさに僕が憧れた"名家のお嬢様"だった。
さらさら揺れるブロンドの髪、ほんの少しだけタレ目がちのパウダーブルーの瞳、白く透き通るような肌。
顔にはいつも笑みを浮かべていた。
対して僕は微かに紫かかった黒髪に彼女からワントーン程落ちた色の碧眼。
顔にはいつも貼り付けられた笑みが浮かんでいる。
僕より彼女の方がよっぽどうちの家にふさわしい、生まれる場所が逆だったように思えた。
穏やかな風がそよいでいた。
見渡す限りの草原、少し遠くに見覚えのある小屋が見えた。
何となくそこに惹かれて歩き出す。
近づくに連れて幼い男女の楽しそうな声が聞こえてきた。
小屋の裏を覗いてみると2人の子どもが花に囲まれて並んで座っている。
どうやら少女が少年に花冠の作り方を教えているようだった。
何かが引っかかる、何か忘れているような気がするが頭にモヤがかかって上手く思い出せない。
もう少し近づいたら何か分かるかもしれない、そう思い小屋の影から踏み出そうとした。
ロベリアは目を覚ました。
窓から差し込んできた朝日が目に染みた。
なにか懐かしい夢を見ていた気がするが、良く思い出せない。
少しの間、思い出そうと思考をめぐらせてみたが
(思い出す必要も無いか)
そう思い直し支度を始めた。