『蝶々結び』
朝の眩しさで眼球が溺れそうだ 寝ぼけてありもしないことを呟いた 夢うつつあなたとの距離が遠いんだ
空には放物線 あなたに手紙を投げている 蝶々結びが苦手な私は肝心な時に靴紐がほどけてしまう これじゃあ今日もあなたに追いつけない 砂埃が舞ってあなたをまた見失なう
『以上。』
小さな小さな嫌なことは コインランドリーに忘れ去られた靴下だ 今日も片っぽで眠る 寂しさが目やにになる 私はそれでも目を開けようとする 清清とした瞬きに憧れる 私のもう片っぽ 洗面所にはいないみたい 鏡に映るあなたはだあれ? 今の私を具体的に説明しろだなんて到底できない 以上。
『春の嵐』
春の嵐 優しくて厳しい風が吹く 花々が散っていく
まださよならも言えてないのに 私はアスファルトの上 息を呑む 新緑が芽生える あの子の自己紹介が
聞こえる 優しさも厳しさもひとつ残らず拾い集めて
次の唄を口ずさむ ああ、木漏れ日だ 私はまた息を呑む
『フルーツケーキにグレープジュース』
その甘酸っぱさに寄り添って 幾許かの夜を超えてきた フルーツケーキにグレープジュース 何気なしの取り合わせ 君はほろ苦い笑顔を浮かべる 馴染みの駅の昔からある洋品店の裏事情を妄想しながら歩く
行きも帰りもそうだった 君も一緒になって妄想して歩く フルーツケーキにグレープジュースなんともいえない取り合わせ
『少しだけ永遠』
膝小僧擦りむいて 強めの風が頬を撫でまわす
永い坂道で少し疲れたんだ キッチンでお茶を淹れるよ そこに君がいて君たちもいる そんな当たり前のことが奇跡だなんてね 笑い合ってお茶をこぼした
このままずっとなんてわがままかな? 少しだけ永遠なんて言葉を頼りにして また次の朝を待っている