『価値観』
お金が欲しい 買えるものを買えるだけ買う
ゆりかごから墓場まで買えるだけ買う
感情も感情の揺らぎでさえも買う お金でできることは全てする そして虚無が来る 見えない渦に巻き込まれて 棒人間のまま立ち尽くす それでも考える余地がある 目の前は広大な大地だ 岩間に咲く小さな花を見つめる それは生まれたての価値観だ 大きな欠伸をする 値札の無い大きな欠伸を
『月夜のカラクリ』
美しい月夜 ハウスワインに広がる溜息の渦
この夜空にも仕掛けがある イリュージョン!と自慢気に髭団長がやってくる あゝ、ゼンマイじかけの夜だ! 不思議なことや幽霊騒ぎも全部僕の仕業なんだ
不恰好な星々は帰宅する それぞれの役割りを果たし
て帰宅する 宇宙史には残らない特別な夜だ!
『絆を推す人ほど軽薄な件』
薄っぺらいはんぺんみたいな笑顔だ 人との絆を大切にしているらしい 確かに出汁のないおでんのような
取巻きに囲まれている 雑談は嫌いなので避けて通りたい 『いい天気ですね』と言い残し瞬間移動したい
『あいにくの雨ですね』と突然現れ、おでんが冷めるような笑顔で言いたい さよならはんぺんまたきなこ
『午後』
たまにはコーヒーに砂糖を入れて 午後と向き合う
テニスボールくらいの心の歪み 弾んでどこかに消えてった お隣りさんのことはよく知らない 深夜によく格闘ゲームをやってるイメージ いずれにせよこの午後には存在しない 私と午後にお茶してくれる友人はできるだろうか? ずっと独りが好きだと思っていたけど 本当は独りに慣れただけ 外はよく晴れている 日入りになると寂しくなるな
『君が転校してしまう』
君が転校してしまう なんの記念日でもない今日に嘶く雷 三角定規を立てては倒して 全ての定理に僕は問う 無論、答えは無い 昼下がりに夏目漱石 『それから』と言われても 唯、耳が痛いだけ
たったひと言呪文のようにあの言葉を投げかける勇気が足りない 精一杯そっけなく手を振った 君の笑顔は一瞬なのに 夜が永く続いていく 都合よく雑草に寄り添って朝を迎える 窓を開けよう 朝の匂い、朝の匂いがする 鬱屈な僕を諫める朝の匂いが