『絆を推す人ほど軽薄な件』
薄っぺらいはんぺんみたいな笑顔だ 人との絆を大切にしているらしい 確かに出汁のないおでんのような
取巻きに囲まれている 雑談は嫌いなので避けて通りたい 『いい天気ですね』と言い残し瞬間移動したい
『あいにくの雨ですね』と突然現れ、おでんが冷めるような笑顔で言いたい さよならはんぺんまたきなこ
『午後』
たまにはコーヒーに砂糖を入れて 午後と向き合う
テニスボールくらいの心の歪み 弾んでどこかに消えてった お隣りさんのことはよく知らない 深夜によく格闘ゲームをやってるイメージ いずれにせよこの午後には存在しない 私と午後にお茶してくれる友人はできるだろうか? ずっと独りが好きだと思っていたけど 本当は独りに慣れただけ 外はよく晴れている 日入りになると寂しくなるな
『君が転校してしまう』
君が転校してしまう なんの記念日でもない今日に嘶く雷 三角定規を立てては倒して 全ての定理に僕は問う 無論、答えは無い 昼下がりに夏目漱石 『それから』と言われても 唯、耳が痛いだけ
たったひと言呪文のようにあの言葉を投げかける勇気が足りない 精一杯そっけなく手を振った 君の笑顔は一瞬なのに 夜が永く続いていく 都合よく雑草に寄り添って朝を迎える 窓を開けよう 朝の匂い、朝の匂いがする 鬱屈な僕を諫める朝の匂いが
『女の子のマーチ』
毛虫のダンスを横目に 女の子は歩き出す
その一歩は鈴なりの果実のように 瑞々しくて愛おしい 頬のにきびに触れながら ぼんやりと考える
このドキドキの所在のことや 朝の訪れがせっかちなこと ジャンクフードが食べたくて 自転車をこぎつづけた わりと最近のお話も 全部女の子の成分なんだ お気に入りワンピース 風に吹かれて ふわりと
揺れた
『ひとつだけ』
地球が生まれるような 奇跡の瞬間を指でなぞって
少しひしゃげたハートのマーク 宙に浮かんですぐ
消えた 岩魚の呼吸のあぶくだろうか? はたまた漫画の心象風景 まだ見ぬ世界がよくなるように たったひとつだけの希望を託す