『君は今』
テーブルの下から切り取る世界 この価値観だけで暮らしていけたらどんなにいいか 染色液に浸された
取り留めのない配色の毎日が 頭痛を呼び込み思案を鈍らせる 君は今、散歩から帰路に着く いつもの散歩道の公園でフリーマーケットがやっていたらしく
藤のゆりかごを抱えて笑う 赤ちゃんもいないけど
無論、そんな予定もないけど とてもいいねと私も笑った
『星がきらりと』
物憂げな空 重苦しい瞼 鬱々としていると
星がきらりと瞬いた 果てなく続く数式の光 かつての獣が涙したこの光 空が心の鏡なら 星は一体なんだろう そう思ったらあれだけ知りたかった悲しみの正体もぼんやりと薄らいで ふわりと軽くなるこころ
悲しみは居留守が上手く 少し不貞寝をしているようだった
『小さないのち』
窓の外 雨粒ひとつに小さないのち 小さな生活
立派な営みを垣間見る 土に滲み入るその雫は新たな世界の一欠片 壮大なパズルゲームのプロローグ
蛙の鳴き声ファンファーレ 雨の日の行進だ 数多のいのちの誕生だ
『らびゅっと』
朝日を浴びてらびゅっと出発 フェンスの向こうに各駅停車 一日の始まりを報せる 思ってみればあなたほどらびゅっとくる相手を私は知らない 濃厚クリームパンも くまのコールテンくんも ディオールの甘い香りでさえも あなたには叶わない 8時45分、電車に揺られ今日のらびゅっと大作戦を企てるのだ
『午睡』
晴天、太陽の下で午睡をしている 我が人生のピンぼけを帳消しにする午後だ 飛行機が飛んでいる 私も
私で旅をするフリをする 脳内フライトは大気圏外へ
太陽のようなものを発見 それが太陽かは定かではないが、みればめらめらと燃えている 赤褐色に包まれて 目も耳も脳みそさえも機能不全に陥って 怯えたように目を覚ます 『ふぎゃあゝ』という私の叫びが
誰かに聞かれていませんように