誰よりも、ずっと
大切な人を守り続けるために
誰よりもずっと、愛し続けなければならない
大切な人を愛し続けるために
誰よりもずっと、知り続けなければならない
大切な人を知り続けるため
誰よりもずっと、努力し続けなければならない
大切な人を守るには努力が必要だと
大切な人を愛するには努力が必要だと
大切な人を知るためには努力が必要だと
努力は切っても切り離せない
手抜きーーーーー
これからも、ずっと
私には推しがいる。まだ地下アイドルではあるが、これからきっと有名なアイドルになるであろう人達だ。
彼らは明るく笑顔で、私たちファンを心の底から元気づけ、支えてくれる。
そんな彼らと私の出会いは数年前。
私はその頃有名IT企業(ブラック企業と有名)で例に漏れず社畜として働いていた。
その頃の私はメンタルもズタボロ外に出れば日光を浴びた瞬間喜びに苛まれてぶっ倒れるくらいには精神がやられていた。
その頃は家に帰れる方が珍しくて、ほとんどの社員が会社で寝泊まりしていたよう。
しかしその日は部長の機嫌がよく、私は運良く家に帰ることが出来てそれだけでも嬉しくてたまらなかったのだ。
久しぶりに見るテレビ。固くも冷たくもないご飯。そんな当たり前のことがたまらなく嬉しくて、幸せで、年甲斐もなくぽろぽろと涙を流してしまった。
ご飯を食べながらぼんやりと眺めていたテレビ。その中に彼らは映っていた。
その番組はひどいもので、「地下アイドルの実態~パワハラモラハラは当たり前?~」という名を打っていた。
しかしそんな番組名とは裏腹に、彼らの笑顔はキラキラと輝いていて、私にはさながら太陽のように見えた。
もちろん番組の趣旨上、パワハラを感じさせるような演出もあったが、会社で当然のように上司の仕事を全て担っていた私からしたらそんなものパワハラではなかった。
とにかく、私は偶然見ただけのテレビの数秒で完全に彼らのトリコにされてしまったわけだ。
そんな素晴らしい笑顔を持った彼らだが、ファンは決して多い訳では無い。地下アイドルである時点で、大手社のアイドルのような動員が見込める訳では無いことは誰しもがわかっている。
それでも彼らのファンはかなり少ないようだった。同じ地下アイドル界隈で見ても。
だからこそ、少ないファンは彼らを支えるために多くのお金をつぎこみ、彼らを、そして運営を応援した。
だが、その努力も惜しかったのだ。
彼らは解散してしまった。
もともと兆しはあった。
みんななんとなく察していた。
それでも理解したくなかった。
どうして?
あんなにお金をつぎこんだのに。
あんなに応援したのに。
あんなにプレゼントもあげたのに。
あんなに私を虜にしておいて。
私はもう仕事もやめたのに。
私にはもうあなた達しかいないのに。
やめるなんて。
どうして?
なんで?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで
なんで?
大丈夫。これからも、ずっと、見ているから。
大丈夫。見放したりなんかしないよ。
大丈夫。お金がないなんて心配しなくていいんだよ。
大丈夫。彼女がいたって気にしないよ。
大丈夫。苦手な食べ物が多くても気にしない。
大丈夫。仕事がないなら私がお金をあげるから。
大丈夫。あなたは笑顔でいるだけでいいの。
大丈夫。他のファンが離れても私が一生推すよ。
大丈夫。私があげたものに髪が入ってても。
大丈夫。私があげたものに盗聴器が入ってても。
大丈夫。私があげたものに尿が入ってても。
大丈夫。私があげたものに血が入ってても。
大丈夫。だって私が全部見てるから。
大丈夫。だって私が全部管理してるから。
大丈夫。運営が全部悪いんだもんね。
大丈夫。君は何も悪くないよ。
大丈夫。だって、君はまだ私のアイドルだもん……♡
最近、誰かに見られている気がしている。
もう引退した地下アイドルなんて追いかけるやついないだろうから、どうせ気のせいだろう。
でもなんだろう?
財布の中のお金が増えている気がするんだ。
お隣さんからもらった料理になぜか苦手なものがひとつも入っていないんだ。卵も肉も魚も苦手な俺なのに。
お隣さんからもらった料理に、髪の毛みたいなものが入っていた気がするんだ。まぁ、調理中に入ってしまったんだろう。
お隣さんからもらったぬいぐるみに、何か硬いものが入っている気がするんだ。なんだろう?まぁ、こんなこともあるか。
お隣さんからもらったスープからなんだか変な匂いがしたんだ。まぁ最近病気にもなったことだし、きっとその後遺症か何かだろう。
お隣さんからもらったチョコケーキに、血……?みたいな何かが入っている気がしたんだ。いや、そんなはずないか。もしかしたら調理中に怪我をしたのがたまたま入ったのかもしれない。
きっと、全部全部気のせいだ。だって俺はただの元地下アイドル。冴えないやつだし、なにか恨まれるようなことをした覚えもない。
きっと気のせいだろう。
そう。気のせい……
『今朝早朝、元アイドルの〜~~~さんが自宅にて亡くなっているところが発見されました。』
『警察関係者の取材によると、複数箇所に渡って刃物で刺した跡があり、相当恨みを持った人物による犯行だろうとのことです。』
大丈夫。もう私だけのものだからね。
沈む夕日
沈む夕日は最後は地底に落ちていく。
父にそう教わった。
父は昔から不思議な人で、私はそんな父からいくつものことを教えられた。例えば「空は止まっている」だとか「星は輝いていない」だとか。
いや、不思議というより天邪鬼だったのかもしれない。
多くの人が信じる定説を父は悉く否定していたから。
私自身も心のどこかではそんなはずないと思っていた。
だけどこれだけはどうしても否定できなかった。
『沈む夕日は最後は地底に落ちていく』
地底なんてものは無い。だって地球は丸いんだから。私たちから見て沈んでいくように見えても、日本の反対側にいる人からしたら太陽は上っているように見える。その理論はわかる。だけど、私の心はそれを信じていない。
だって、夕日がこんなにも赤いのだから。
あんなにも赤い夕日が反対にいる人からしたらあんなにも白く輝いて見えるなんて、有り得ないじゃないか。少なくとも私には信じ難い。
父も私も、きっとこういうことを言っているのだと思う。
少し想像してみる。
夕日が私にはもう見えないところまで沈んだ。沈んだ夕日はそのまま落ち続けて、地底までたどり着く。そうすると地底に住む人々は久方ぶりの日光を浴び、農業を行う。そうしてまた夜が明け、日は昇っていく。
なんて浪漫のある考えだろう。どんなに有り得ないと否定されようとも、私にはそれを完全に知る術がないのだから、それを裏切ることは無い。
日が降りてきた。久方ぶりの日光はこんなにも気持ちの良いものだっただろうか。ぽかぽかと暖かく、体だけでなく心までも暖まっていく気がする。
だんだんと瞼が重くなってきた。日が降りていない間のここは少しも光が届かないためひどく寒い。その寒さを耐えながら眠りにつかなければならないため、私たちにとっての眠りはひどくつらいものだ。
しかし日が降りている間は違う。私たちに暖かさをもたらされている間は普段苦しまされている寒さを気にすることなく心穏やかに眠ることが出来る。
しかしこうしている場合ではない。日が降りている間に作物の世話をしなければ。
植物の成長に必要不可欠な日光が当たっている間にここの植物は急成長を果たす。
収穫期になる前に水をやり、余計な草を取り、栄養を与えなくてはならない。
ここ地底での暮らしは君たち地上人とは違いやることも苦痛も段違いに多いのだ。
君の蒼い瞳が僕を見つめる。
君の瞳はまるで僕らを覆うこの青空みたいで、偶にこの空みたいに曇ったり雨が降ったりするんじゃないかと思ってしまう。
昔だから記憶が曖昧なのかもしれない。
そんなはずもないのに、昔の君の瞳はずんと重く暗い曇り空の色をしていた気がした。きっと気のせいだ。わかっている。
だけどもしそれが本当だったのなら、君の瞳はいつか真っ赤に染って夕暮れみたいになるんじゃないか?
そんなの怖くてたまらない。
だってそうだったなら、君の瞳はいつか深い黒に覆われてそのまま君までも夜のように眠りについてしまうのではなかろうか。
そんなことが頭の中から離れてくれないから、君の瞳を覗き込む度に心臓がドクドクと跳ねて僕の心を狂わせる。
でも、もし、もしも君の瞳に星が映るなら、そんな素晴らしいことは無い。
いつまでも明けぬ夜のまま、その瞳に輝く星を封じ込めていてほしい。
そんな矛盾を抱えているから。だから僕はこんなにも汚い瞳を持つのだろう。
「ねぇ、どうしたの?上の空だけど」
そんなこと、僕を覆う君ならわかるだろうに。
でも、僕を気にかけてくれたその心が優しくて、暖かくて、嬉しくてたまらない。
また矛盾だ。
僕の矛盾はどこまで行ったら消えてくれるんだろうか。
そんなのわからないよ。わからない。わかりたくもない。なのに、そのはずなのに、君が僕を見つめてくるからそんなくだらない問いでも答えを見出そうとしてしまう。
答えなんて出したくないのに。出さないまま矛盾を抱えていたいのに。
あぁ、また矛盾だ。
本当は矛盾なんて消し去ってしまいたい。なにも考えないまま君の瞳を見つめていたい。
この空のように澄んだ青い空。その中をゆうゆうと流れる白い雲。時々降る雨だって気にならないほど、綺麗な空、君の瞳。
「……そんなに見つめないでくれるかな?」
少し頬を紅らめて君が言う。君の頬は君の瞳を流れる雲みたいに白くて、時々紅くなるところは夕暮れみたいで。
そうだ。まさしく君は空だ。
青い瞳も、白い頬も、瞳を流れる雲も、紅くなる頬の色も、何もかも全部。まさしく空なんだ。
あぁ、最高だ。最高としか言いようがない……!
だって僕を覆うこの空が君の中に詰まっているなんて!
君もこの空のように僕を包み込んで全て隠してしまうんだろう。包み込んで隠して僕をそのまま消してしまったらいい。
消えてしまった僕は君に吸い込まれて空の一部になる。
空に消えて。そうしたらきっと幸せだろうな。
なんてくだらない妄想をしてる。
本当は"君"なんているはずもない。ただの妄想。
"僕"も、ね